がん:分岐したままの経路から伝達されるシグナル入力はB細胞の形質転換を妨げる
Nature 583, 7818 doi: 10.1038/s41586-020-2513-4
細胞の悪性形質転換には、一般に複数の遺伝的損傷が関与していて、それらが組み合わさって作用することでがんが生じる。今回我々は、B細胞性白血病(B-ALL)患者由来の1148の検体の解析を行い、個々の変異は単一の発がん経路に収斂しない限り、白血病発生を促進しないことを見いだした。このような単一の発がん経路は、形質転換したB細胞の分化段階の特徴である。この中心的な発がんドライバーに連携していない変異は、分岐したままの経路を活性化し、形質転換を妨げる。B-ALLでの発がん性損傷は、プロB細胞段階ではサイトカイン受容体を介するシグナル伝達を(シグナル伝達タンパク質STAT5の活性化を介して)模倣し、もっと成熟の進んだB細胞ではプレB細胞受容体を介するシグナル伝達を(プロテインキナーゼERKの活性化を介して)模倣することが多い。STAT5やERKを活性化する損傷は高頻度で見られるが、これらが共に生じるのは症例の約3%のみである(P = 2.2 × 10−16)。単一細胞での変異やリン酸化タンパク質の解析から、STAT5やERKの発がん性の活性化は競合しているクローンに分かれて存在することが明らかになった。STAT5とERKは、それぞれ転写因子MYCとBCL6によって調整される、相反する生化学的プログラムや転写プログラムに関与している。分岐したままの(抑制された)経路を遺伝的に再活性化すると、主要な発がんドライバーが失われる結果として、形質転換が抑えられた。逆に、分岐したままの経路の構成要素を欠失させると、白血病発生が加速した。従って、分岐したままのシグナル伝達経路を持続させることは、形質転換に対する強力な障壁になるが、1つの主要なドライバーへの収斂は、白血病開始における重要な事象の1つをはっきり示している。抑制された分岐したままの回路の薬理学的な再活性化は、主要な発がんドライバーの阻害と強力に相乗作用する。そのため、分岐したままの複数の経路の再活性化は、治療への応答を増強するこれまで認識されていなかった戦略として使える可能性がある。

