分子生物学:標的探索の際のDNA表面の探査とオペレーターの素通り
Nature 583, 7818 doi: 10.1038/s41586-020-2413-7
特定のDNA配列に結合する多くのタンパク質は、三次元での拡散と非特異的DNA上の一次元の滑り移動とを組み合わせることによって、ゲノムを探索する。今回我々は、共鳴エネルギー移動と蛍光相関法による測定を組み合わせて、個々のlacリプレッサー(LacI)分子が一次元の標的探索の際にDNA表面を探査する仕組みの特徴を調べた。滑り移動するLacI分子の回転をマイクロ秒の時間スケールで追跡するために、我々は共焦点レーザーによるリアルタイム単一分子追跡法と蛍光相関分光法とを組み合わせたSMCT–FCS法を用いた。蛍光シグナルの変動は、回転と共役した滑り運動によって正確に記述され、LacIは1回転当たり約40塩基対(bp)移動することが分かった。この距離は、10.5 bpというDNAらせんのピッチを十分に上回っており、これは滑り運動するタンパク質がDNAの溝から頻繁に跳び出すことを示唆していて、これは標的配列を頻々と素通りするという結果になりかねない。我々は、単一分子蛍光共鳴エネルギー移動(smFRET)を用いて、このような素通りを直接的に観察した。smFRETとSMCT–FCSのデータを組み合わせて解析することにより、LacIが200~700 μsごとに1本もしくは2本(10~20 bp)の溝を跳び越えることが明らかになった。これらのデータは、滑り運動の際の速度と正確さの間にトレードオフの関係があることを示唆している。つまり、非特異的なタンパク質–DNA相互作用が弱いことはオペレーターの素通りの原因となるが、同時に滑り運動の速度は上昇する。SMCT–FCSは、回転拡散をマイクロ秒の時間スケールで観察しながら、個々の分子をミリ秒の分解能で追跡できるので、他の多くの生物学的相互作用をリアルタイムで調べるのにも応用可能と考えられ、こういった相互作用の観察に当たってはアクセス可能な時間領域を、事実上2桁程度拡大できるだろう。

