Letter

生物学的手法:神経系統に関わる胚盤胞補完法により可能になったマウス前脳器官形成

Nature 563, 7729 doi: 10.1038/s41586-018-0586-0

遺伝的改変マウスは一般に、多能性胚性幹(ES)細胞を野生型宿主の胚盤胞に顕微注入してキメラの子孫を作製することにより得られ、改変対立遺伝子の生殖系列への伝達やホモ接合性の確保には交配が必要である。我々は以前に、免疫系の研究を促進するためのもう1つの手法として、RAG2欠損マウスを使う胚盤胞補完法を開発した。RAG2欠損マウスはV(D)J組換えが起こせないので、B細胞系譜もしくはT細胞系譜の細胞は前駆細胞段階から分化が進まない。RAG2欠損胚盤胞に十分量のRAG2を持つドナーES細胞を注入すると、成熟リンパ球の全てがドナーES細胞由来である体細胞キメラマウスが生じる。この方法により、成熟リンパ球でマウスの発生にもっと広く必要とされる遺伝子の機能解析が可能になる。胚盤胞補完法の応用は膵臓の器官形成にまで広がっていて、他の複数の組織や器官の作製にも用いられているが、これと原理的に同じ方法で脳の器官形成に使えるものはまだ得られていない。今回我々は、神経系統に関わる胚盤胞補完法(neural blastocyst complementation;NBC)について報告する。この方法は、特定の前脳領域の発生や機能を調べるのに使用できる。NBCでは、発生の間にジフテリア毒素サブユニットAを使い、宿主由来背側終脳前駆細胞を標的として除去することが必要である。この除去により、前脳が存在しない空のニッチが作り出され、これは大脳皮質や海馬の無形成につながる。ジフテリア毒素サブユニットAを用い前脳特異的ターゲッティング処理を行った胚盤胞へドナーES細胞を注入すると、ドナー由来の背側終脳前駆細胞が宿主胚中の空のニッチに生着できるようになり、新皮質と海馬が生じる。これらは学習と記憶形成に関して形態学的および神経学的に正常である。さらに、ダブルコルチン欠損ES細胞(CRISPR–Cas9法により作製)を用いて作られたNBCキメラは、従来の生殖系列ダブルコルチン欠失マウスの表現型を忠実に再現した。NBCは、前脳の機能を研究するための複雑なモデルマウス作製に使える迅速かつ効率的な手法であると我々は考える。この手法は胚盤胞補完法を基盤とする器官形成をより広い範囲にわたって促進するだろう。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度