分子進化学:古代タンパク質の配列空間における選ばれなかった別の進化史
Nature 549, 7672 doi: 10.1038/nature23902
分子の進化がなぜそのように起きたのかを理解するためには、分子配列がとり得た空間全体にわたって進化がたどった道筋だけでなく、選ばれる可能性があったにもかかわらず選ばれなかった別の多くの道筋に関しても、それらの特性を明らかにする必要がある。実際の進化史と可能だった進化史との大規模な比較によって、進化の帰結が自然選択によって駆動された最適状態であるのか、それとも進化史における偶然の事象の積み重ねによって得られた偶発的な産物であるのかが立証されると考えられ、配列空間全体にわたって潜在する機能の分布が歴史的進化をどのように形作ってきたのかも明らかになるだろう。今回我々は、祖先的タンパク質の再構築とdeep mutational scanning法とを組み合わせることにより、新規の生物学的機能を進化させた機構が十分に解明されている古代の転写因子について、これを取り巻く配列空間において選ばれなかった別の進化史の特性を明らかにした。その結果、さまざまな生化学的機構を用いて、少なくとも実際の帰結と同等の能力で派生機能を果たすことのできる別のタンパク質配列が数百通り見つかった。これらの配列は全て、派生機能を増強しない許容的な置換を事前に必要としたが、進化史において実際に起きたのと同じ許容的変化を必要とするものばかりではなかった。進化が祖先的機能をコードする配列のネットワーク内の異なる出発点から始まっていれば、遺伝的および生化学的に異なる別の形の帰結が生じていた可能性が高く、こうした偶発性は配列空間内の機能的バリアントの分布および残基間のエピスタシスから生じることが明らかになった。今回の結果は、進化史が1つの道筋を選び出した際にそこにあった多数の可能性からなる広大な空間のトポロジーに光を当てるとともに、進化の帰結がいかに偶然の事象の積み重ねという連鎖に依存するのかを明らかにしている。

