がん:B細胞でのホスファチジルイノシトール 3-キナーゼδの遮断はゲノム不安定性を上昇させる
Nature 542, 7642 doi: 10.1038/nature21406
AID(activation-induced cytidine deaminase)はB細胞特異的な酵素で、免疫グロブリン遺伝子を標的として、クラススイッチ組換えや体細胞超変異を開始させる。さらにAIDは、オフターゲット活性により、リンパ腫の発生やプログレッションに関与する発がん性の染色体転座や変異を開始させることで、ゲノム不安定性にもっと広範な影響を及ぼす。B細胞ではAIDの発現は厳密に調節されており、その過剰発現がゲノム不安定性やリンパ腫形成の亢進につながる。ホスファチジルイノシトール 3-キナーゼδ(PI3Kδ)経路は、B細胞でのAIDの発現を抑制することでAIDを調節する。イデラリシブ、ドゥベリシブ(duvelisib)、イブルチニブなどの白血病あるいはリンパ腫治療薬は、PI3Kδ活性を直接あるいは間接的に遮断して、B細胞でAIDの発現に影響を及ぼし、その結果ゲノム安定性を変化させている可能性がある。今回我々は、イデラリシブあるいはドゥベリシブをマウス初代培養B細胞に投与すると、AIDの発現が上昇し、Igh座位およびAIDのいくつかのオフターゲット部位での体細胞超変異や染色体転座の頻度が増加すること、また、イブルチニブの投与でも程度は低いが同様の作用が見られることを示す。どちらの作用もAID欠失B細胞では完全に消失していた。PI3Kδ阻害剤あるいはイブルチニブはプリスタン投与マウスでAID依存性腫瘍の形成を増加させた。これと一致して、PI3Kδ阻害剤は、ヒトの慢性リンパ球性白血病やマントル細胞リンパ腫の細胞株で、AIDの発現や、IGHおよびAIDオフターゲット部位での転座頻度を上昇させた。また、イデラリシブ投与を受けた患者はAIDオフターゲット部位での体細胞超変異の増加を示したが、イブルチニブ投与を受けた患者ではそのような影響は見られなかった。まとめると、PI3KδあるいはBTK(Bruton’s tyrosine kinase)の阻害剤はAID依存的な機構により正常および新生物性のB細胞でゲノム不安定性を上昇させることが分かった。このような阻害剤は長年にわたり患者に投与される可能性があるため、こうした影響については慎重に考慮すべきである。

