がん:Bリンパ球系転写因子の代謝ゲートキーパー機能
Nature 542, 7642 doi: 10.1038/nature21076
PAX5やIKZF1などのBリンパ球系転写因子はB細胞の初期発生に重要であるが、これらの転写因子をコードする遺伝子の異常は、前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病(pre-B ALL)の症例の80%以上で起こっている。これらの異常のALLにおける重要性はこれまで明らかになっていない。今回我々は、クロマチン免疫沈降法を塩基配列解読法やRNA塩基配列解読法と組み合わせて用いることで、グルコースやエネルギーの供給を転写抑制するBリンパ球系の新しいプログラムを明らかにする。我々の代謝解析から、PAX5およびIKZF1は慢性的なエネルギー枯渇状態を強いて、エネルギーストレスセンサーであるAMPKの構成的活性化を引き起こすことが分かった。一方で、PAX5やIKZF1のドミナントネガティブ変異体では、このグルコースやエネルギーの制限が軽減された。pre-B ALLのトランスジェニックマウスモデルでは、Pax5のヘテロ接合性欠失により、グルコースの取り込みとATPレベルが25倍以上も上昇した。pre-B ALL患者の試料においてPAX5およびIKZF1を再構成すると、非許容状態に戻り、エネルギー危機と細胞死が誘導された。CRISPR/Cas9に基づくPAX5とIKZF1の転写標的のスクリーニングから、NR3C1(グルココルチコイド受容体をコードする)、TXNIP(グルコースフィードバックセンサーをコードする)、CNR2(カンナビノイド受容体をコードする)の産物が、Bリンパ球系でグルコースやエネルギー供給を制限する中心的なエフェクターであることが明らかになった。また、ピルビン酸やトリカルボン酸回路の代謝産物の輸送非依存性の脂溶性メチル抱合体は、PAX5およびIKZF1のゲートキーパー機能を迂回して、容易に白血病形質転換を行うことができた。逆に、薬理学的なTXNIPアゴニストやCNR2アゴニスト、低分子AMPK阻害剤はグルココルチコイドと強力な相乗効果を発揮することから、TXNIP、CNR2、AMPKが治療標的候補であることが分かった。さらに我々の結果は、グルココルチコイドがBリンパ球系の悪性腫瘍の治療には有効であるが、骨髄性悪性腫瘍の治療には有効でないという経験的事実の機構的説明となる。このように、Bリンパ球系転写因子は、細胞内のATP量を悪性形質転換には不十分なレベルに制限することによって、代謝ゲートキーパーとして機能している。

