学習と記憶:ミトコンドリアと記憶をつなぐカンナビノイド
Nature 539, 7630 doi: 10.1038/nature20127
脳での細胞活動は、エネルギー源を用いてATP生産を行う細胞小器官であるミトコンドリアによる大量のエネルギーサポートに依存している。急性カンナビノイド中毒はヒトや動物に健忘を引き起こし、脳のミトコンドリア膜にある1型カンナビノイド受容体(mtCB1)の活性化は、ミトコンドリアのエネルギー生産活動を直接変化させることがある。脳の慢性ミトコンドリア機能不全の病理学的影響については理解が進んでいるものの、急性のミトコンドリア活性変化が、例えば学習や記憶などの脳の高次機能にどう関わるかは分かっていない。今回我々は、マウスのカンナビノイド誘発急性記憶障害は、海馬のmtCB1受容体の活性化を介して起こることを示す。海馬のミトコンドリアでmtCB1受容体を遺伝的に欠失させると、ミトコンドリアの移動性、シナプス伝達、記憶形成の、カンナビノイドで誘発される低下が防がれる。mtCB1受容体は、ミトコンドリア内でのGαiタンパク質活性化とその結果起こる可溶性アデニル酸シクラーゼ(sAC)の抑制を介して信号を発する。その結果、ミトコンドリア電子伝達系の特定のサブユニット群のプロテインキナーゼA(PKA)依存的なリン酸化が抑制され、細胞呼吸が低下する。海馬でsAC活性を抑制したり、ミトコンドリア内のPKA信号系を操作あるいは複合体IサブユニットのNDUFS2をリン酸化したりすると、カンナビノイドの生体エネルギー作用や健忘作用は抑制される。従って、Gタンパク質と共役したmtCB1受容体は、ミトコンドリアのエネルギー代謝を変化させることにより、記憶の過程を調節している。今回のデータは、ミトコンドリアの活性と記憶形成とを直接結び付けることにより、生体エネルギー過程が認知機能の重要な急性調節因子であることを明らかにしている。

