がん:Krasによる肺がんの遺伝的モデルと化学的モデルにおける変異の全体像
Nature 517, 7535 doi: 10.1038/nature13898
ヒト腫瘍の次世代塩基配列解読により、がんのイニシエーションとプログレッションで影響を及ぼす変異過程についての理解が進んできたが、ドライバー変異を誘導する因子と、腫瘍形成における変異選択を方向付ける過程については、大きな疑問が残っている。本研究では、3種類の非小細胞肺がんマウスモデルから得た腺腫で全エキソーム塩基配列解読を行った。これらの肺がんは、発がん物質[メチルニトロソウレア(MNU)およびウレタン]への曝露、あるいはKras(KrasLA2)の遺伝的活性化によって誘発されたものである。MNU誘導性腫瘍では、KrasLA2モデル(G12D)で見られるものと全く同じイニシエーション変異がKrasに起きていたが、MNU腫瘍には平均して192個の非同義の体細胞一塩基多様体があったのに対して、KrasLA2モデルの腫瘍には6個しかなかった。対照的に、KrasLA2腫瘍は、発がん物質による腫瘍に比べ、異数性とコピー数変化が顕著に高いレベルにあることから、発がん物質モデルと遺伝子改変モデルでは、異なる経路で腫瘍が形成されると考えられる。野生型のKras対立遺伝子は、非小細胞肺がんのマウスモデルで、腫瘍抑制因子として働くことが報告されている。野生型マウスでウレタンによって誘発させた腫瘍のほとんど(94%)にKras Q61R変異があるが、Krasヘテロ接合のマウスで誘発させた腫瘍では、ほとんど(92%)にKras Q61L変異があったことから、生殖系列でのKrasの状態が、イニシエーションにおける変異選択に大きな役割を持つことが示された。発がん物質による腫瘍の全エキソーム変異スペクトルでは、イニシエーションを引き起こす発がん物質の特性がはっきりと示されており、また腺がんは、CpG部位にCからTへの変異をさらに獲得していた。以上のデータは、ヒト腫瘍ゲノム塩基配列解読結果を理解する上での1つの基盤を提供しており、一塩基多様性とコピー数変化の相対頻度に基づいて、腫瘍の2つの大きな分類を明らかにし、ヒトのがんで見られる複雑な変異スペクトルを理解するためには、発がん物質モデルが重要であることを示している。

