タンパク質合成には、リボ核酸情報を生命の構成要素であるタンパク質へ翻訳することが含まれている。タンパク質合成の第一段階は、メッセンジャーRNAの5′末端の7-メチルグアノシン(m7-GpppG)キャップ構造への真核生物翻訳開始因子4E(eIF4E)の結合である。酸素圧が低い場合(低酸素状態)は、mTOR(mammalian target of rapamycin)に依存する機構によりeIF4Eを隔離することで、キャップを介した翻訳が抑制される。内部リボソーム進入部位は、これとは別の翻訳開始機構だが、この経路のみでは低酸素状態の細胞の翻訳容量を説明できない。このことから、酸素が欠乏してeIF4Eが阻害されている場合に、タンパク質がどのようにして合成されるのかという生物学における基本的な疑問が生じる。本論文では、酸素によって調節される翻訳開始複合体について述べる。この複合体は、キャップ構造依存性のタンパク質合成を選択的に仲介する。酸素によって調節される低酸素誘導性因子2α(HIF-2α)、RNA結合タンパク質RBM4およびキャップ構造に結合するeIF4E2(eIF4Eホモログ)を含む複合体の形成が、低酸素により促進されることがわかった。PAR-CLIP(photoactivatable ribonucleoside-enhanced crosslinking and immunoprecipitation)解析から、上皮増殖因子受容体をコードするmRNAなどのさまざまなmRNAでこの複合体を動員するRNA低酸素応答エレメント(rHRE)が見つかった。HIF-2α–RBM4–eIF4E2複合体は、rHRE上で組み立てられると5′キャップ構造を捕捉し、mRNAをポリソームに到達させて、活発な翻訳が行われるようになり、低酸素によって誘導されたタンパク質合成抑制がこうして回避される。これらの知見は、細胞が、酸素圧によって基本的な翻訳開始装置を切り換えるというプログラムを進化させたことを実証している。