Research Press Release
がん:修復経路の乗っ取りによるがん細胞の生き残り
Nature Communications
2012年5月9日
がん細胞は、細胞死に関与する遺伝子を減らしつつDNA修復遺伝子の一部の発現を誘発することで、細胞死を引き起こすDNA複製ストレスを軽減していることが明らかになった。この新知見は、がん細胞がDNAの変異によって生じるストレスから逃れる過程の機構について、さらなる手がかりをもたらしている。この研究結果を報告する論文は、今週、Nature Communicationsに掲載される。
DNA修復遺伝子FEN1が変異した細胞は、高レベルのDNA複製ストレスを受け、染色体の数が変化する。Fen1遺伝子が変異したマウスは、がんを発症する傾向があることから、L Zheng、B Shenたちの研究チームは、このマウスの細胞を用いた実験を行い、染色体数が変化したがん細胞がDNA複製ストレスを克服できることを明らかにした。このがん細胞は、複数のDNA修復経路(例えば、BRCA1、p19ARF)に関与する遺伝子の発現を上昇させて、これらの遺伝子が、損傷を受けたDNAの修復を引き起こした。その反面、それと同時に、細胞の老化と細胞死に関与する遺伝子の発現が低下したこともZheng、Shenたちは指摘している。
以上の知見は、染色体数が変化し、複製ストレスを受けたがん細胞が自らに有利なように細胞経路を操作する過程に関する新たな分子レベルの手がかりといえる。
doi:10.1038/ncomms1825
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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