生態学:米国河川における魚類の生物多様性の変化
Nature
2025年9月25日
過去30年間で水温の変化と人為的な魚類の移入により、米国全域の河川における魚類群集の構成が変化したことを報告する論文が、Natureに掲載される。特に冷水域の河川では著しい影響が確認され、30年間の研究期間中に魚類の個体数が50%以上減少した事例が観察されている。この知見は、温暖化を緩和する戦略の策定と、生物多様性保全のための魚類移入管理の必要性を浮き彫りにしている。
淡水系には、1万8,000種以上の魚類が生息し、地球上の脊椎動物全体の約25%を占める。これらの魚類は淡水系の機能において重要な役割を担い、人間にとって重要な食料源および経済源である。しかし、世界の魚類生物多様性は脅威にさらされており、米国では気候変動と魚類導入(外来種または釣り用魚の放流)が主要な脅威となっている。
Samantha Rumschlag(米国環境保護庁〔米国〕)、Michael Mahonらは、1993年から2019年にかけて全米の河川および渓流で389種を2,992地点でモニタリングし、淡水魚の生物多様性動向を追跡した。その結果、低温な河川(15.4℃未満)では、27年間で種群密度(個体数)が53.4%、および種多様性(固有種数)が32%にそれぞれ減少した一方で、群集の独自性はより増したことが判明した。著者らは、これらの冷水域では大型で成熟が遅い魚の割合が増加した一方で、小型魚の割合が減少した可能性があり、これは大型の釣り用魚の導入が原因かもしれないと示唆している。一方、温暖な河川(23.8℃以上)では傾向が逆転し、個体数と種多様性は、それぞれ70.5%、および15.6%増加し、群集は類似性を増した。これらの温暖な水域では、小型魚が大型魚に取って代わった。著者らは、低温な河川の魚類が生態系において温暖な河川の魚類よりも温度上昇に敏感であるため、低温な河川での温度影響がより大きい可能性が高いと指摘している。
河川水温、および外来魚あるいは釣り用魚の個体数の変化は、相互に影響を増幅させ、地域の魚類生物多様性に対する劣化速度を加速させた、と著者らは報告する。30年足らずで生じた変化の規模を考慮し、著者らは米国における魚類群集構成の変化への緊急対応が必要と結論づけている。魚類導入の規制および生態系回復努力が魚類生物多様性の変化を緩和する手段となりうる、と著者らは提案している。
シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 12(つくる責任、つかう責任)、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)、およびSDG 14(海の豊かさを守ろう)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases」をご覧ください。
- Article
- Published: 24 September 2025
Rumschlag, S.L., Gallagher, B., Hill, R. et al. Diverging fish biodiversity trends in cold and warm rivers and streams. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09556-0
doi:10.1038/s41586-025-09556-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
生態学:米国河川における魚類の生物多様性の変化Nature
-
地質学:サントリーニ島で最近発生した地震は共通のマグマによって説明できるかもしれないNature
-
古生物学:新種の肉食恐竜が白亜紀後期のアルゼンチンを支配していたNature Communications
-
気候変動:2100年までに世界的に深刻な水不足が発生するかもしれないNature Communications
-
健康:ヨーロッパにおける熱関連死の調査Nature Medicine
-
古生物学:南米の琥珀層に古代昆虫が「ひしめき合う」Communications Earth & Environment