物理学:電気化学を用いた核融合反応速度の促進
Nature
2025年8月21日
重水素融合反応速度を向上させる電気化学的方法を報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この手法は、消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生産する段階までにはまだ遠いものの、低エネルギーの電気化学プロセスを用いて、はるかに高いエネルギー規模での核反応速度に影響を与える可能性を示している。
核融合は、太陽を動力源とするプロセスで、2つの軽い原子核が1つの重い原子核に結合し、エネルギーを放出する。核融合は、クリーンエネルギー源として期待されているが、現在の核融合炉は、消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生産する十分な融合反応を起こすことができない。融合速度を制御する要因の一つは、燃料の密度で、密度が高くなるほど粒子衝突の確率が増加し、その結果融合反応の確率も高まる。
核融合発電の一つの方法では、磁場、温度、および圧力を組み合わせて核燃料(通常は水素の重同位体である重水素のプラズマ)を圧縮し、核融合が発生する状態まで高める。しかし、これはまだ開発段階にある。
Curtis Berlinguetteら(ブリティッシュコロンビア大学〔カナダ〕)は、電気化学を活用することによる重水素の核融合速度を向上させるための異なる方法を提案している。著者らは、Thunderbird Reactorと名づけた卓上型粒子加速器を設計した。この装置は、パラジウムの標的へ重水素イオンのビームを照射する。パラジウムに埋め込まれた重水素の濃度が増加するにつれ、埋め込まれた重水素とビームから新たに到着する重水素の衝突による融合反応の速度も増加し、最終的に定常状態に達する。パラジウムの標的は、電気化学セルに接続されており、このセルを起動すると追加の重水素が標的へ供給され、融合速度が上昇する。平均して、電気化学負荷なしの場合と比べて融合速度は15%増加した。著者らは、現時点ではThunderbird Reactorは入力電力15Wあたり約1×10のマイナス9乗(10億分の1)Wの出力にとどまる点を指摘している。
エネルギー収支に優れた核融合の実現はなお課題であるものの、「それでも、電気化学を用いて核融合の速度を増加させることは、重要な成果である」と、Amy McKeown-GreenとJennifer Dionneは同時掲載されるNews & Viewsで述べている。「核物理学、化学、および材料科学にわたる技術的進展を駆使し、著者らは、利用可能な卓上型核反応炉による低エネルギー核融合の広範な研究の道筋を拓いている」と付け加えている。
- Article
- Open access
- Published: 20 August 2025
Chen, KY., Maiwald, J., Schauer, P.A. et al. Electrochemical loading enhances deuterium fusion rates in a metal target. Nature 644, 640–645 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09042-7
doi:10.1038/s41586-025-09042-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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