Research Press Release

微生物学:アプリが豚の腸内細菌の行動を制御する

Nature Microbiology

2025年7月29日

スマートフォンで制御可能な経口カプセルが、豚の腸内細菌を制御し、双方向コミュニケーションを可能にすることを報告する論文が、Nature Microbiology に掲載される。この発見は、大腸炎などの疾患の新たな診断および治療戦略の基盤となるかもしれない。

消化管内の微生物は、健康に影響を与えることが知られているが、その制御が可能かどうかはまだ不明である。大腸菌(Escherichia coli)のような細菌は、動物体内で特定部位に薬剤を送達するように改変することができる。しかし、いったん大腸菌が生体内に入ると、大腸菌とコミュニケーションをとったり、大腸菌の行動を制御したりすることは困難である。

Hanjie Wangら(天津大学〔中国〕)は、光信号を利用して経口スマートカプセルと通信可能な大腸菌を設計した。著者らは、Bluetooth経由でカプセルに接続するスマートフォンアプリを通じて、このコミュニケーションを観察し、制御することができた。概念実証として、Wangらは、大腸炎(大腸の炎症)を誘発した3頭の豚に、硝酸塩(大腸炎の指標)を検出すると発光するよう組み換えられた大腸菌を定着させた。スマートカプセルは、3つのボタン電池で駆動するカスタム印刷の回路基板を搭載しており、豚に摂取され、この光信号を検出し、アプリに送信した。アプリを通じて、著者らは発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を点滅させることでカプセルの発光を指示した。これにより、大腸菌の光感受性遺伝子回路を活性化し、抗炎症性抗体の分泌を誘発し、大腸炎の症状を緩和した。

この技術は、生体内の遺伝子操作細菌の挙動を制御することで、微生物を用いた診断や治療の精度を高めることができる。このシステムをさらに改良し、複数のコミュニケーションと臨床試験に対応できるようにすれば、将来は人間の病気の治療にも応用できる日が来るかもしれない。

  • Article
  • Published: 28 July 2025

Zhang, X., Feng, Z., Li, H. et al. Ingestible optoelectronic capsules enable bidirectional communication with engineered microbes for controllable therapeutic interventions. Nat Microbiol (2025). https://doi.org/10.1038/s41564-025-02057-w

 

doi:10.1038/s41564-025-02057-w

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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