生態学:バッタの群集行動を抑制
Nature
2025年6月26日
バッタ(locust)の大群を引き起こすフェロモンの生成を調節する主要な酵素を報告する論文が、今週のNature にオープンアクセスで掲載される。このフェロモンの生成を阻害する可能性のある複数の候補物質も同定された。これらの主要な酵素を標的としてフェロモンの生成を阻害することは、バッタの害虫防除に有効で持続可能な戦略となるかもしれない。
バッタの大群は、世界規模で環境、農業、および経済に脅威をもたらしている。化学殺虫剤が大群の駆除に用いられているが、その使用は環境、食料安全保障、および人間の健康に有害な影響を及ぼす可能性がある。フェロモンである4-ビニルアニソール(4VA:4-vinylanisole)がイナゴの群れの形成に重要な役割を果たすことは知られている。このフェロモンの操作は、大群への予防戦略として活用できるかもしれないが、その生合成メカニズムについてはほとんど分かっていない。
4VAの合成メカニズムを解明するため、Le Kangら(中国科学院〔中国))は、フェロモンの分子起源を追跡した。著者らは、餌を摂取したバッタにおいて4VAの高濃度を確認し、その生合成が植物由来のアミノ酸であるフェニルアラニンから始まり、バッタがこれを4VAに変換することを明らかにした。さらに、バッタの群集密度に応じてフェロモンの濃度を調節する2つの酵素を同定した。4-ニトロフェノール(4-nitrophenol)という化合物が、酵素の機能を阻害する有力な候補として試験されたが、現実の応用では毒性の懸念がある。しかし、4VAの生成を阻害する複数の代替化合物が提案されている。
大群を誘発するフェロモンの生成を阻害することは、バッタの防除に有効な戦略である。著者らは、4VAの生合成を明らかにしたことから、生成を抑制するさらなる候補化合物の研究が必要だと結論づけている。
- Article
- Open access
- Published: 25 June 2025
Guo, X., Gao, L., Li, S. et al. Decoding 4-vinylanisole biosynthesis and pivotal enzymes in locusts. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09110-y
doi:10.1038/s41586-025-09110-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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