Research Press Release

環境:化石燃料の埋蔵量を植林で相殺するには「克服しがたい課題」がある

Communications Earth & Environment

2025年6月20日

世界200の大手化石燃料企業が保有する化石燃料埋蔵量から発生する潜在的な二酸化炭素排出量を相殺(offset;オフセット)するためには、北米大陸の土地面積を超える新たな森林を植林する必要がある。この結果を報告する論文が、オープンアクセスジャーナルCommunications Earth & Environment に掲載される。また、これらの企業の埋蔵量全体をオフセットするためのコストを現在の評価から差し引いた場合、ほとんどの企業で市場評価がマイナスとなる可能性が示唆されている。

将来の排出シナリオは通常、二酸化炭素排出量の削減と、これらの排出の一部をオフセットする措置の両方が含まれている。クリーンエネルギーへの移行期間中に、現在化石燃料企業の埋蔵量に含まれる1,820億トンの炭素の一部が使用されることがほとんどのシナリオで想定されているため、オフセット措置は必要不可欠である。植林(afforestation;新しい森林を造成するために木を植えること)は、コストが低いことから、オフセット策としてよく提案されている。しかし、大規模なオフセットのための植林の実用性は現在不明である。

Alain Naefら(エセック経済商科大学院大学〔フランス〕)は、2050年までに世界200の大手化石燃料企業の現在の埋蔵量から発生する潜在的な排出量の総量を植林でオフセットする可能性を評価した。著者らは、既存の埋蔵量をオフセットするためには、北米大陸よりも広い2,475万平方キロメートルを超える面積に植林が必要だと結論づけた。このような広大な面積を森林に転換するには、既存のコミュニティーや農地を移転し、既存の重要な自然生息地を破壊する必要がある。

著者らは、対象企業の「純環境価値評価(net environmental valuation)」も推定した。これは、既存の化石燃料埋蔵量から排出される潜在的な排出量をオフセットするコストを、現在の市場評価から差し引いた財務価値と定義した。著者らは、2022年の欧州平均の排出量のオフセットコスト(1トンあたり83米ドル)を基に、95%の企業がマイナスの純環境価値評価となることを示した。

著者らは、分析にはいくつかの簡略化が含まれるものの、結果から、企業は化石燃料の採掘を停止する方が、採掘とオフセットを行うよりも経済的に利益が大きいこと、および植林はすべての二酸化炭素排出量をオフセットする有効な方法ではないことが示されたと結論づけている。

Naef, A., Friggens, N.L. & Njeukam, P. Carbon offsetting of fossil fuel emissions through afforestation is limited by financial viability and spatial requirements. Commun Earth Environ 6, 459 (2025). https://doi.org/10.1038/s43247-025-02394-y

シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGsSustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 7(エネルギーをみんなに。そしてクリーンに)、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)およびSDG 15(陸の豊かさも守ろう)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases (https://press.springernature.com/sdgs/24645444 )」をご覧ください。
 

doi:10.1038/s43247-025-02394-y

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