生物工学:たった一度の投与でマウスのコレステロール遺伝子を抑制できる
Nature
2024年2月29日
マウスを使った研究で、コレステロール濃度を制御する役割を持つ遺伝子の持続的な抑制がゲノム編集以外の方法で実現されたことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。この研究で用いられたのは、エピジェネティックな標的サイレンシングという手法で、DNA塩基配列を直接改変せずに、標的の遺伝子の機能を変化させることができる。その効果はマウスでは約1年間持続し、循環血中のコレステロール濃度を低下させることが、今回の研究で示された。この結果は、エピジェネティックなサイレンシングによって各種疾患を治療する可能性があることを実証している。
病気に関係する遺伝子の発現を改変するという方法は、ヒトの病気の治療法として有望視されている。ゲノム編集という手法は、ある程度の成功を示しているが、DNAを切断して塩基配列の変化を導入すると、望ましくない突然変異や予期せぬオフターゲット活性につながる可能性があると懸念されている。エピゲノム編集は、遺伝子配列を改変せずにDNAと結合する化学基を改変できるため、魅力的な代替手段となっているが、標的遺伝子の持続的な抑制を実現することは難題とされてきた。
今回、Angelo Lombardoらは、マウスを使って、低密度リポタンパク質(コレステロールの一種)の受容体の分解を促進するタンパク質を産生するPcsk9遺伝子の発現を抑制する方法について報告している。Lombardoらは、標的遺伝子を認識できるさまざまなDNA結合プラットフォームをスクリーニングして、ジンクフィンガータンパク質の性能が最も優れていたことを見いだした。次にLombardoらは、脂質ナノ粒子を用いてエピジェネティック編集機構をマウスの血流に送達し、血流中を循環させて肝臓に到達させた。そして、マウスにエピジェネティック修飾剤を単回投与したところ、効率的かつ持続的にPcsk9遺伝子を抑制し、循環血中のPCSK9タンパク質濃度を最長330日間(実験終了時)にわたってほぼ半減させた。この方法をさらに改良したところ、PCSK9タンパク質濃度は、従来の遺伝子編集によって達成可能なレベル(最大75%)まで低下することが明らかになった。
Lombardoらは、以上の知見は原理証明であるため、さらなる研究が必要だとし、今後のさらなる評価によって、彼らのプラットフォームがエピジェネティックなサイレンシングを用いる治療法の開発の基盤となる可能性があると述べている。
doi:10.1038/s41586-024-07087-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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