食物学:米国の陸域食料供給に蔓延した強制労働のリスク
Nature Food
2023年7月25日
米国の食料サプライチェーンにおける強制労働のリスクの62%が、米国内の食料生産と食料加工に起因していることを明らかにした論文が、Nature Foodに掲載される。この知見は、米国の陸域での食料供給において、強制労働のリスクが依然として蔓延していることを示している。
強制労働とは、個人が、暴行や脅迫を受けて、または累積する借金や身分証明書を取り上げられることにより、または入国管理当局に告発すると脅されて、強制的に働かされる状況をいう。強制労働やその他の形態の搾取をなくすことを目指した貿易制裁や要件の法制化が増えているが、強制労働や搾取を発見し、撲滅する活動は、世界の食料サプライチェーンの複雑性ゆえに生じている数々の課題に直面している。また、統合データセットが不足していることは、サプライチェーンレベルでの研究の新たな課題になっている。これまでの研究は、研究対象の食料品の数が少なかったり、地域レベルや国レベルに限られたものであったりすることが大部分だった。
Nicole Blackstoneらは、強制労働のリスクを評価するため、米国の陸域での食料供給(魚介類を除く)に関する生産と貿易のデータをまとめた。このデータは、労働集約度に関するデータの他、サプライチェーンの複数の段階における強制労働のリスク(非常に低いリスクから非常に高いリスクまで)を示すためにコード化された多くの情報源と組み合わされた。今回の研究の対象となった食品は合計212点、食品と国の組み合わせ(例えば米国産オレンジジュース)は合計1312組だった。その結果、強制労働リスクに寄与する食品カテゴリーの第1位は食肉、家禽の肉、卵などの動物性タンパク質(28%)、第2位は甘味料、飲料、チョコレート、ココアなどの嗜好食品(23%)、第3位は果物や野菜の加工品(18%)だった。Blackstoneらは、強制労働リスクの62%が米国内での生産や加工に起因し、51%が米国内での農業の結果に起因するという見解を示し、米国の食料供給における強制労働リスクに対する寄与度が米国に次いで高かったのは、中国(14%)とメキシコ(8%)だったと指摘している。
Blackstoneらは、今回の知見は、食料システムにおける強制労働に対処するための行動を起こすことが、高所得国、中所得国、低所得国のいずれにおいても緊急に必要なことを明確に示していると指摘している。
doi:10.1038/s43016-023-00794-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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