摂食障害:神経性無食欲症の治療薬候補
Nature Medicine
2023年7月25日
神経性食欲不振症患者への幻覚剤シロシビンの単回投与は、心理学的サポートの下で行うならば安全で許容できる治療であり、一部の患者の病的な摂食行動を減少させる可能性があることが分かった。この結果は小規模な第1相臨床試験によって得られたもので、新しい治療法としてシロシビンを評価する研究を今後行う際の基盤となるだろう。
神経性無食欲症は、食べ物や体重、体形、食べることについての過剰で不適切な先入観、恐怖と苦痛を特徴とするメンタルヘルス疾患である。この状態は治療が難しく、成人の神経性無食欲症の中核的な症状を元に戻すための認められた治療法はなく、承認された薬理学的介入法もない。シロシビンによる治療は他の精神疾患でも効果が期待できることが明らかになっており、不安の改善、認識の柔軟性、自己受容と関連付けられている。
S K Peckらは、18~40歳の神経性無食欲症の女性患者10人に、心理学的サポートを行いながら、試験用のCOMP360シロシビン(英国のCOMPASS Pathways社が開発した合成シロシビン)25ミリグラムを単回投与し、投与後3カ月間にわたって、安全性、忍容性、探索的有効性を評価した。Peckらは、患者からの重い副作用の報告はなく、シロシビン治療の急性の作用は忍容性が良好だったことを詳しく報告している。また患者からの定性的自己申告応答では、90%がシロシビン治療を意味のある好ましい方法と認識し、可能ならば追加の治療を希望することが述べられていた。またPeckらは、3カ月間追跡した時点で4人の患者の食行動異常スコアが大幅に低下し、摂食障害の寛解と認定したことも明らかにした。しかし、これらの結果は予備的なもので、さらに研究が必要だとPeckらは強調している。
Peckらは、これらの結果は少ない症例数に基づいたもので、プラセボ投与群も含まれておらず、慎重に解釈すべきだと述べており、シロシビン治療は安全で条件にあった良好なものだが、今回の知見を検証するにはさらに無作為化対照臨床試験を行う必要があると結論している。
doi:10.1038/s41591-023-02455-9
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