環境:オゾン汚染はキイロショウジョウバエの雌雄認知を混乱させるかもしれない
Nature Communications
2023年3月15日
キイロショウジョウバエがオゾン汚染にさらされると、キイロショウジョウバエが産生して空中を漂うフェロモンが損傷して、交尾相手になり得る個体を引き付けたり、異性を認知させたりする機能を果たさなくなる可能性があることを示唆する論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、昆虫の個体群に対する人間活動の新たな脅威を明らかにしている。
数多くの昆虫種に絶滅のリスクがあるため、昆虫の個体数の減少は、多くの国々で自然環境保全に対する大きな懸念材料になっている。多くの昆虫は、フェロモン(空気中に放出される化学シグナル)を使って情報を伝達しており、これが交尾相手になり得る個体を見つけるうえで特に重要な役割を担っている。例えば、チョウやガの雌は、フェロモンを使って遠くにいる雄を引き寄せることが知られている。しかし、人間の産業活動によって排出される汚染物質である地表オゾンが、フェロモンとどのような反応をして、フェロモンを損傷するのかは分かっていない。
今回、Markus Knaden、Nan-Ji Jiangたちは、キイロショウジョウバエの雄を高濃度のオゾンにさらすと、雄が産生するフェロモンの劣化が起こることを報告している。この場合、キイロショウジョウバエの雌は、これらの雄への関心が低下し、雄の求愛行動に対する応答がかなり遅くなった。また、オゾンに曝露されたキイロショウジョウバエの雄が別の雄に対して求愛行動を示すことが増えたという観察結果も得られた。著者たちは、こうなったのは、雄が、フェロモンがないと雌雄の区別ができないからである可能性が高いという見解を示している。
さらに著者たちは、都市部のオゾン濃度が、今回の研究で設定した濃度と同等以上であることが多い点を指摘している。このオゾン汚染が野生の昆虫個体群に及ぼす影響可能性を明らかにするためには、さらなる研究が必要である。
doi:10.1038/s41467-023-36534-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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