肉食動物の個体数減少は人類の社会経済的発展に関連しているかもしれない
Nature Communications
2023年1月25日
世界の大型肉食動物(ライオン、トラ、オオカミなど)の個体数減少は、生息地の減少や気候変動よりも人類の社会経済的成長に強く関連している可能性のあることがモデル化研究で示唆された。この研究知見は、人類の生活水準を向上させることと肉食動物の個体数を維持することがトレードオフの関係にある可能性を浮き彫りにしており、このことが、人類の発展・成長を促進するための国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に立ちふさがる課題となる可能性がある。今回の研究について報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
生物多様性と野生生物の個体数に対する脅威についての我々の理解は、これまでの研究によって深まった。しかし、全球スケールでの生物多様性の変化を駆動する要因や、大型肉食哺乳類を含む野生生物の個体数に対する人類の社会経済的要因(所得、教育、平均余命の向上など)の役割は、それほど解明されていない。
今回、Thomas Johnsonたちは、世界中の1000を超える個体群において、世界の大型肉食動物50種(ライオン、トラ、オオカミなど)の個体数の減少と回復を駆動する特徴を解析した。Johnsonたちは、生物多様性の変化を駆動する主な要因は、人類の発展状況の変化であり、以前の研究で示唆された気候変動や生息地の減少ではないことを明らかにした。また、Johnsonたちは、過去50年間に人類の発展状況の変化が肉食動物の個体数をどのように方向付けてきたかを推定するためのシミュレーションも行った。その結果、人類の発展・成長が速い場合、肉食動物の個体数は急激に減少することが判明した。これに対して、人類の発展・成長が鈍化し、頭打ちになり始めると、肉食動物の個体数は増加して、以前の個体数を回復できることを示した。これにより生物多様性の減少に対処するうえで役立つかもしれない戦略が見えてきた。
以上の知見は、開発途上国において国連のSDGsの達成を妨げるかもしれない対立状況を明らかにしている。健康状態、教育、所得が向上すると、陸上生態系の改善に向けた進展に悪影響を及ぼすかもしれない。Johnsonたちは、さらに研究を進めて、人類の発展・成長と肉食動物の個体数減少を結びつける機構を確立する必要があると指摘している。
doi:10.1038/s41467-022-35665-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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