免疫学:妊娠期間中のSARS-CoV-2に対する免疫応答の評価
Nature Communications
2022年1月19日
妊娠期間中に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性と判定された女性12人に関する研究から、妊娠期間中にSARS-CoV-2への曝露があると、母体と胎児の両方の細胞が関係する胎盤炎症反応が誘発されるが、胎盤組織はSARS-CoV-2に感染しないことが示唆された。この知見を報告する論文が、Nature Communications に掲載される。
SARS-CoV-2に感染した妊婦の大半は無症状か軽症だが、一部の研究で、妊婦は重症化リスクが高い可能性があるとされた。しかし、無症候性あるいは軽度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が胎児-母体境界組織と乳児の健康にどのように影響するかはほとんど分かっていない。
今回、Nardhy Gomez-Lopezたちは、妊娠期間中のSARS-CoV-2感染の影響を解明するため、SARS-CoV-2陽性と判定された妊婦12人と健常対照者11人を対象に研究を行った。SARS-CoV-2陽性の妊婦のうち8人は無症候性感染で、1人は軽度の症状を示し、3人は酸素補給を必要とする重症のCOVID-19に感染していた。Gomez-Lopezたちは、胎盤、母親の血液、乳児の血液において、母親がウイルスに曝露したときに見られる特徴的な炎症誘発性免疫応答を観察した。SARS-CoV-2に対する母親の抗体は、胎盤を経由して乳児に到達していたが、胎盤では胎児の抗体もSARS-CoV-2も検出されなかった。このことは、胎盤が胎児をウイルス感染から守っていることを示唆している。
Gomez-Lopezたちは、今回の知見から、SARS-CoV-2感染における母体-胎児間免疫応答に関する手掛かりが得られ、母親から胎児への垂直感染はまれな事象と考えられることが示されたが、妊婦のCOVID-19重症例が少ないため、今回の研究の結論の解釈は慎重に行うべきだと指摘している。
doi:10.1038/s41467-021-27745-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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