Research Press Release

幹細胞:ストレスが発毛に影響を及ぼす仕組み

Nature

2021年4月1日

マウスの研究で、ストレスホルモンが毛包幹細胞の調節を介して発毛を抑制することが明らかになったと報告する論文が、今週、Nature に掲載される。今回の研究では、この影響の根底にある機構がマウスで特定され、それを逆転させる方法が示唆された。

毛包は、成長期と休止期を周期的に繰り返す。齧歯類とヒトを対象としたこれまでの研究で、ストレスが発毛に影響を及ぼす可能性が示されてきたが、ストレスと発毛がどのように関連しているのかは、ほとんど解明されていない。今回、Ya-Chieh Hsuたちは、ストレスが発毛に及ぼす影響を明らかにするため、マウスを使って、コルチコステロン(慢性ストレス時に放出されるマウスのホルモン)が毛包の活性をどのように調節するのかを調べた。

マウスを使った複数の実験から、コルチコステロン濃度が上昇すると、毛包は長期間にわたって休止期にとどまり、再生できないことが明らかになった。逆に、コルチコステロンが枯渇すると、毛包幹細胞が活性化され、新たな発毛が起こる。Hsuたちは、コルチコステロンがGAS6タンパク質の産生を抑制して、毛包幹細胞の活性化を阻害することを報告している。GAS6は、コルチコステロンが存在しない場合に、毛包幹細胞の増殖を促進することが示されている。今回の結果は、GAS6の発現を回復させれば、ストレスによる毛包幹細胞の阻害を克服でき、発毛の再開を促進する可能性のあることを示唆している。

同時掲載のNews & Viewsでは、Rui Yiが、「こうしたエキサイティングな知見は、慢性的なストレスによる脱毛の治療法を探求するための基盤を確立する」と記している。しかし、Yiは、この知見をヒトに応用する前にいくつかの問題に取り組む必要があると付言している。例えば、齧歯類のコルチコステロンは、ヒトのコルチゾールに相当すると考えられているが、ヒトにおいてコルチゾールが今回観察されたのと同じ作用を示すかは分からない。また、マウスとヒトでは発毛段階が異なっており、このことが、ストレスによる毛包幹細胞の阻害を逆転させる方法の有効性に影響を及ぼす可能性がある。

doi:10.1038/s41586-021-03417-2

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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