がん:一部の黒色腫生存者で免疫応答が9年間持続した
Nature Cancer
2021年3月25日
免疫療法を受けた黒色腫患者4人の皮膚と血液中に、特定のタイプのT免疫細胞が診断後最長9年にわたって残存していたことを報告する論文が、Nature Cancer に掲載される。この成果は、がん免疫療法の治療効果の長期持続性に関する新たな知見をもたらす。
近年、がん治療は、免疫療法によって大きく変貌した。がんの免疫療法には、腫瘍細胞を認識して除去する免疫系の能力を刺激したり、向上させたりするさまざまな方法がある。しかし、免疫療法に応答するがん患者はごく少数だ。従って、免疫療法への応答、特に持続的かつ長期的な応答を引き起こす細胞機構と分子機構を解明して、免疫療法に応答する可能性の高い患者を特定し、より多くの患者に治療効果が及ぶ戦略をさらに構築する必要がある。
免疫療法を受けている黒色腫患者の中で、長期生存者は、白斑(皮膚の色素が失われる自己免疫疾患)を発症することが多い。今回、Mary Jo Turk、Christina Angelesたちの研究チームは、このような転帰を示した4人の患者を分析した。彼らは、単一細胞分析法を用いて、黒色腫の患部の皮膚と白斑の患部の皮膚の両方の試料と免疫細胞が循環する血液における、T細胞(白血球の一種)の全体像を調べた。その結果、黒色腫の患部と白斑の患部の皮膚の両方に存在し、血液中の記憶T細胞(長期免疫応答に関与するT細胞の一種)と同じ特徴を有する、特異な「常在型記憶」T細胞が見つかった。この細胞は、診断後最長9年にわたって残存し、インターフェロンγの発現が高く、これは、抗腫瘍免疫機能を有していることを示唆している。
著者たちは、治療前の腫瘍に常在型記憶T細胞が存在することが知られているため、免疫療法や白斑の発症が常在型記憶T細胞の集団にどのような影響を及ぼすのか、また、この細胞集団が免疫療法に対する持続的応答の予測因子として有用かを検討するために、より大きなサンプル群を用いてさらに研究を行う必要があると結論付けている。
doi:10.1038/s43018-021-00180-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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