炭素収支は再考が必要
Nature Geoscience
2018年5月15日
地球温暖化を定められた温度レベル以下に保つために炭素収支を決定することの有効性について、今週発表される2編のCommentが疑問を投げ掛けている。著者たちは、単一の数値に集中する代わりに、排出値の幅と気候政策議論における政治的な現実性に集中する方が有効であると論じている。
温暖化レベルが究極的に全炭素排出量のみに依存し、排出量の時間的変化には依存しないという考えは、2009年のコペンハーゲン気候サミットの直前に提唱された。これを受けて、炭素収支はパリ協定の記載で定められた温度レベル(摂氏1.5あるいは2度という目標)によって計算されている。
1つ目のCommentでは、Glen Petersが、炭素収支は政策決定者にはほとんど意味のないものとなっている、と指摘している。その理由は2つあり、1つは、炭素収支は全球規模のものだが、実際の政策決定は国ごとに行われているためで、もう1つは、炭素循環に関する知識が不十分であり、また炭素収支の見積もりは利用者と社会の選択に依存することから、炭素収支が極めて不確かであるためだ。Petersは、これらの不確かさについて公の場で議論し、今世紀後半には排出量を0にするという目標に集中する必要があると示唆している。
また2つ目のCommentで、Oliver Gedenは、炭素収支の考えが2009年に導入されて以降、気候政策の議論にしか影響を与えておらず、気候政策の実行には影響を与えていないと述べている。Gedenは、気候科学者らによる情報発信の異なる枠組みこそが、政策的実効性を伴った行動の開始に合致しているだろう、と示唆している。厳格な行動を取らずに、「真夜中まであと5分」といった物語を続けるのであれば、摂氏1.5あるいは2度という気候学的目標の達成は難しい、ということを指摘できるのは科学者だけなのである。
doi:10.1038/s41561-018-0143-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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