多発性硬化症の新たな悪役
Nature Neuroscience
2010年2月15日
実験用化合物クプリゾンcuprizoneは、意外な機構を経由してミエリンを破壊する。Nature Neuroscience(電子版)に発表される研究報告によると、クプリゾンは白血球の一種である好中球を誘導して中枢神経系へ侵入させ、オリゴデンドロサイト(OL)というミエリン形成細胞を死滅させる。このような血液細胞は、多発性硬化症治療薬開発の標的になりうるかもしれない。
多発性硬化症(MS)では第一に、神経路の重要な絶縁体であるミエリンに対し自己免疫性の攻撃が起こる。しかし、MSにおいて最も重大な損傷は、自己免疫と中毒機構の組み合わせにより生じると考えられている。マウスでは、化合物クプリゾンにより、この種の重いミエリン損傷が起こる。R Ransohoffらは、CXCR2欠損マウスのOLがクプリゾンによって死滅しないことを報告している。CXCR2は炎症促進ペプチドの受容体である。正常マウスとCXCR2欠損マウス間の一連の骨髄移植実験により、OLへのクプリゾンの毒性発現には、CXCR2が脳細胞ではなく血液細胞に存在しなければならないことが明らかになった。血液循環から好中球(唯一CXCR2を発現する血液細胞)を除去した正常マウスは、クプリゾンの毒性作用に抵抗性になった。
クプリゾンそのものはヒトMSと関連付けられていないが、その他の環境毒も同様の細胞機構で起こる可能性がある。それならば、好中球を標的とした治療アプローチを研究すべきである.
doi:10.1038/nn.2491
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