【生態】魚類の捕獲がサンゴ礁で非常に重要な栄養素の流動を乱している
Nature Communications
2016年8月17日
人間がサンゴ礁の魚類、とりわけ食物連鎖の上位にいる魚類を捕獲すると、これらの魚類が循環させている生態系の維持にとって重要な栄養素が半減することが明らかになった。今回の研究結果は、魚類の乱獲が魚類群集にもたらす負担だけでなく、魚類が提供する生態系サービスにもたらす負担の解明にも役立つ。詳細を報告する論文が、今週掲載される。
魚類は、サンゴ礁生態系において栄養素の重要な「貯蔵庫」として作用するが、魚類が漁獲されサンゴ礁生態系から除去されると、この貯蔵庫が失われてしまう可能性がある。しかし、こうした貯蔵庫が失われるという影響を生み出しているのがバイオマスの減少なのか、魚類群集の構造の変化なのかは明確になっていない。
今回、Jacob Allgeierたちは、カリブ海において、漁獲圧が高く、その結果として大型の捕食魚類が減り、小型魚類が大部分を占めるようになったサンゴ礁と漁獲が禁止された海洋保護区にあり魚類群集が比較的無傷で残っているサンゴ礁の合計43か所をサンプルとして、魚類群集の栄養素貯蔵能力を調べた。その結果、体長の多様性が大きく、より上位の捕食魚の多い魚類群集で栄養素貯蔵能力(貯蔵能力と排出能力の組み合わせ)が高くなることが明らかになった。さらに栄養素貯蔵能力は、漁獲量の多いサンゴ礁の方が禁漁区のサンゴ礁より約40~46%低く、サンゴ礁付近の人口密度が高くなるにつれて低下した。
以上の結果は、栄養素の流動に対する魚類の寄与がその種類によって異なっており、漁獲後の栄養素循環の減少の大半は、大型捕食魚類の選択的な除去によるものだということを示唆している。
doi:10.1038/ncomms12461
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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