注目の論文

腸チフスの病原体に関する極めて網羅的な遺伝的研究

Nature Genetics

2008年7月28日

Global genetic survey of the typhoid fever agent

腸チフスの病原体であるチフス菌(Salmonella enterica Typhi)の19種の菌株について実施された全ゲノム比較研究の成果が、Nature Genetics(電子版)に掲載される論文で報告される。今回の研究は、1つのヒト病原体を概観した研究として、これまでで最も網羅的で、年間約1700万人に影響を与えるチフス菌の多様性と進化に関して新たな知見をもたらしている。

今回の研究が行われるまでは、チフス菌の全ゲノム塩基配列は、2種の菌株についてのみ報告されていた。今回、ウェルカムトラスト・サンガー研究所(英国ヒンクストン)のK Holtらの研究チームは、新しいハイスループット塩基配列解読技術を用い、それぞれ進化の過程の異なる17種の菌株を加えて、全ゲノム塩基配列を解読し、チフス菌の遺伝的多様性を可能な限り広範な観点から検討した。

19種の菌株のゲノムを比較したところ、菌株間の多様性は比較的低いことが判明し、ほとんどの遺伝的多様性は、遺伝子機能欠損によって生じたと考えられている。このように多様性が低いことからは、チフス菌がヒトの免疫系から強い選択圧を受けていないことが示唆され、チフス菌が免疫応答の標的となっていない部位に潜伏している可能性が生まれている。

比較的変異の少ないチフス菌ゲノムの解析結果は、無症状のチフス菌保有者をチフス菌の主たる伝播様式とする考え方とも一致している。環境中での持続性があれば、遺伝的多様性を促進するような交換が起こると推測されるからである。結局、今回の研究は、ワクチン接種によって集団中の病原体保有者を減らすことが、疾病管理の1つの重要な長期戦略であることを裏づけている。

doi: 10.1038/ng.195

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