注目の論文

生体内画像化により明らかになったがん転移の調節

Nature Cell Biology

2009年10月19日

Intravital imaging reveals regulation of metastasis

がん細胞が1つずつばらばらに広がるか、それともまとまって塊となって広がるか、またこのような細胞がリンパ系と血液のどちらを介して浸潤するかが、1つの細胞内シグナル伝達カスケードの活性化によって決まることがわかった。固形腫瘍の転移はがん罹患率を上げる原因となるので、この研究は治療的介入と薬剤設計にとって重要である。

E Sahaiたちは、生きているマウスの体内で蛍光標識をつけた乳がん細胞が移動する様子を、高感度カメラを使って非侵襲的に観察した。一部の腫瘍細胞は1つずつ単独で移動するが、それら以外は塊を作ってもっとゆっくり移動することがわかった。サイトカインの1つであるトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)は腫瘍細胞の運動性を増大することが知られているが、SahaiたちはTGF-βシグナル伝達が活性化しているのは単独で移動する細胞のみであり、集団で移動する細胞では活性化していないことを見いだした。どちらのタイプの移動もがんの転移につながったが、意外なことに、細胞が移動する部位は異なっていた。TGF-βシグナル伝達を欠く細胞は集団で移動し、リンパ節にのみ広がった。これとは逆にTGF-βシグナル伝達が亢進していると、単独で移動する細胞の血液中への播種が増えたが、肺へのがんの転移は防止された。したがって、単一細胞の運動性にはTGF-β経路の活性化が必要だが、がんの肺転移にはこの経路の遮断が必要だということになる。

これらの知見は、腫瘍中の細胞にみられるシグナル伝達経路の特徴が細胞によって異なる可能性をはっきり示しており、臓器から臓器へのがんの転移を防止する薬剤の設計に役立ちそうだ。

doi: 10.1038/ncb1973

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