注目の論文

精神疾患のマウスモデル

Nature Genetics

2008年5月12日

Modeling psychiatric disorders in mice

微小染色体欠失を有するマウスにみられる行動障害と認知障害の原因分子の1つが同定されたことを報告する研究論文が、Nature Genetics(電子版)に掲載される。この欠失に対応するヒトゲノムの欠失は、さまざまな精神疾患を引き起こし、一般人口における統合失調症の約1~2%の原因となっている。

22番染色体上の小さな領域の欠失は、不安、うつ、注意欠陥多動性障害、自閉症、作業記憶障害と関連している。この欠失のある人々の約30%は、最終的には統合失調症を発症する。

コロンビア大学医療センター(米国ニューヨーク州)のM Karayiorgou、J Gogosらの研究チームは、これに対応したマウスゲノム上の領域に欠失のあるモデルを作製した。単一の欠失を有するマウスは、人間の疾患に部分的に類似したさまざまな行動障害や認知障害を示している。特に関心がもたれているのが、この変異マウスの脳内でマイクロRNA(低分子の調節性RNA)の前駆体の発現が高い点である。Karayiorgouらは、マイクロRNA前駆体を成熟したマイクロRNAにプロセシングするのがDgcr8タンパク質の正常な役割であることから、欠失がみられる領域の1つの遺伝子(Dgcr8)の欠失が、マイクロRNA前駆体の発現増大の原因であることを明らかにした。そして、Karayiorgouらは、Dgcr8遺伝子を1コピーだけ有するマウスを作製することで、Dgcr8遺伝子の周辺領域に欠失のあるマウスで観察される障害の少なくとも一部については、Dgcr8遺伝子の変異自体が原因であることを示した。

脳内におけるマイクロRNA発現の変異によって、下流で何が標的になるのかについては、具体的に明らかになっていないが、Karayiorgouらは、今回の知見が、精神疾患の遺伝的基盤の解明全般に重要な意味をもつかもしれない、という見方を示している。

doi: 10.1038/ng.138

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