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タンパク質翻訳因子が乳がんを引き起こす

Nature Cell Biology

2009年6月15日

Protein translation factor causes breast cancer

特に悪性の乳がんの原因となる因子が見つかった。炎症性の乳がんの患者では、タンパク質発現の調節因子の1つが過剰に存在し、それによって細胞を接着しやすくする因子が誘導される。そして、このような因子は、細胞を転移性腫瘍に形質転換してしまうのである。この知見は、この種のがんの広がりを抑止できる標的治療の開発に役立ちそうだ。

炎症性乳がん(IBC)は、急速に浸潤するために乳がんの中で最も死亡率が高い。R Schneiderたちは、IBCにはeIF4GIというタンパク質が過剰発現するという特徴があることを明らかにしている。この因子は全体的なタンパク質産生には影響しないが、細胞どうしの接着の調節因子であるEカドヘリンとp120カテニンの濃度を上昇させることがわかった。このため、がん細胞は周囲の組織に接着せずに、がん細胞どうしで凝集するようになる。こうしてできたがん細胞の凝集塊が循環血中に入ると、受動転移という過程によって体中に広がり、このことはIBCの高い死亡率の説明となる。IBCのマウスモデルでeIF4GI、Eカドヘリン、あるいはp120カテニンのサイレンシングを行うと、いずれの場合も腫瘍の増殖と浸潤が抑えられ、またeIF4GIの乳がんにおける働きはp120カテニンの脱調節に依存していることが明らかにされた。

IBC転移の原因分子が突き止められたことで、標的治療介入により、この特に悪性の乳がんの浸潤を防止できるようになるかもしれない。

doi: 10.1038/ncb1900

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