神経科学:繰り返される頭部外傷は若年アスリートの脳細胞を変化させる
Nature
2025年9月18日
Neuroscience: Repeated head trauma alters brain cells in young athletes
若年アスリートにおける繰り返しの頭部衝撃は、神経変性疾患の兆候が現れるはるか以前から、神経細胞の喪失や炎症を引き起こすかもしれないことを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この知見は、コンタクトスポーツに従事する個人の初期症状を説明する一助となり、将来的に脳損傷の早期発見および治療に向けた取り組みの指針となり得る。
慢性外傷性脳症(CTE:chronic traumatic encephalopathy)は、アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツで頻繁に生じる反復的な頭部衝撃に関連する神経変性疾患である。現在、CTEの診断は死後に限られ、特定の脳領域における異常なタウタンパク質(tau protein)の蓄積を確認することで下される。しかし、多くの若年アスリートは、このタンパク質が現れる前に症状を示すため、早期の脳変化を理解する必要性が浮き彫りとなっている。
Jonathan Cherryら(ボストン大学〔米国〕)は、51歳未満の28名(頭部外傷歴なし8名、タウタンパク質蓄積の兆候なしのコンタクトスポーツ選手9名、早期CTEと診断されたコンタクトスポーツ選手11名)の死後脳組織を分析した。選手のうち1名を除く全員がアメリカンフットボール選手であった。研究者らは、CTEの有無にかかわらず、すべてのコンタクトスポーツ選手において、非アスリート対照群と比較して神経炎症、血管損傷、および神経細胞喪失が増加していることを発見した。特に注目すべきは、コンタクトスポーツ選手では、頭部外傷のない同年齢の個人と比較して、思考や気分を司る重要な領域である表層皮質層(superficial cortical layer)の神経細胞が56%減少していたことである。このニューロン減少は、タウタンパク質蓄積と関連しておらず、CTEの定義的病理とは独立して早期に発生することを示唆している。著者らはまた、脳内の免疫細胞である炎症性ミクログリア(inflammatory microglia)の量が、フットボールのプレー年数の増加に伴い増加することも発見した。さらに、ミクログリアと血管間の潜在的なシグナル伝達経路を特定し、繰り返される頭部外傷が持続的な脳変化を引き起こすメカニズムの解明や将来の治療法開発に寄与する可能性を示した。
これらの知見は、反復的な頭部外傷単独でも脳に長期的な細胞変化を誘発し、タウタンパク質蓄積以前に現れる初期症状の一因となり得ることを示唆している。より大規模かつ多様な集団での追加研究が必要ではあるが、本研究は若年アスリート保護の重要性を強調するとともに、反復的な頭部衝撃による脳変化の診断および治療標的に関する新たな方向性を提示している。
- Article
- Open access
- Published: 17 September 2025
Butler, M.L.M.D., Pervaiz, N., Breen, K. et al. Repeated head trauma causes neuron loss and inflammation in young athletes. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09534-6
doi: 10.1038/s41586-025-09534-6
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