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医療科学:医療を導くAIツール

Nature

2025年9月18日

Health sciences: An AI tool to guide healthcare

Nature

人の健康状態が生涯にわたってどのように変化するかを予測できる新たな人工知能(AI:artificial intelligence)モデルを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。このツールは、医師や医療計画担当者が個々の医療ニーズをより深く理解し、準備するのに役立つかもしれない。

多くの人々は、生涯に複数の疾患を経験するが、心血管疾患およびがんなど異なる疾患が互いにどのように影響し合うかを予測することは困難であった。医療上の意思決定は、患者の病歴に基づき、時間の経過とともに健康状態がどのように変化するかを予測することにますます依存している。AIは、患者の記録からなる大規模なデータセットを分析することで、疾患進行のパターンを特定する強力なツールを提供する。しかし、特に集団規模において、これらのモデルの潜在能力は依然としてほとんど未開拓のままである。

Moritz Gerstungら(ドイツがん研究センター〔ドイツ〕)は、患者の記録(生活習慣要因や他の健康状態など)における特定の疾患発生時期の相対的なパターンを検出するAIモデル「Delphi-2M」を開発した。このモデルは、英国の40万人分の健康データで訓練され、デンマークの約200万人分のデータを用いて検証された。著者らは、Delphi-2Mが個人の病歴に基づき1,000種類以上の疾患発生確率を予測できることを確認した。その精度は、各ツールで予測対象となる疾患数がはるかに少ない既存ツールと同等かそれ以上であった。さらに、最大20年先までの将来の健康経路をシミュレーションし、プライバシーを保護しつつ他のAIモデルの訓練に有用な合成データを生成することも可能であった。

この手法は、疾患リスクの高い個人の特定、スクリーニングプログラムの指針策定、および医療サービスの長期的計画立案に貢献する可能性がある。将来のバージョンでは、より多様な健康情報を取り込み、個別化医療の向上にも貢献するとみられる。ただし、著者らは、本モデルが学習データに内在するバイアスを反映している点、および追加検証なしに直接的な医療判断に用いるべきではない点を指摘している。

Shmatko, A., Jung, A.W., Gaurav, K. et al. Learning the natural history of human disease with generative transformers. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09529-3
 

doi: 10.1038/s41586-025-09529-3

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