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ゲノミクス:古代DNAがエジプト人の祖先の謎を解明する

Nature

2025年7月3日

Genomics: Ancient DNA unshrouds Egyptian ancestry

Nature

上エジプトのヌワイラート(Nuwayrat)にある古王国時代の墓から回収された古代エジプト人の全ゲノムシーケンス解析のデータを報告する論文が、今週のNature にオープンアクセスで掲載される。第3–4王朝時代に遡るこの分析結果は、北アフリカやメソポタミアを含む中東地域の古代集団との遺伝的つながりを明らかにし、古代エジプト人の遺伝的多様性に関する新たな知見を提供している。

古代エジプトの古王国時代(紀元前2686年–2125年)は、上エジプトと下エジプトの統一と初期王朝時代(紀元前3150年–2686年)に続き、最初の階段ピラミッドの建設を含む、顕著な安定と革新の時代であった。数十年にわたる研究が古代エジプト人に関する一般的な理解に貢献してきたが、古代エジプト人の遺伝的構成についてはほとんど知られていなかった。現在までに、古代エジプト人のゲノムが部分的に解読された古代エジプト人はたった三人しかおらず、DNAの保存状態の悪さが依然として大きな課題となっている。

Adeline Morez Jacobsら(リバプール・ジョン・ムーア大学〔英国〕)の研究によって新たに解読されたゲノムは、放射性炭素年代測定で紀元前2855–2570年頃と推定される男性のものに属し、これは初期王朝時代の終わりと古王国時代の始まりにまたがる時期である。彼は、ヌワイラートで密封された陶器の壺に埋葬されており、高い社会地位を示唆している。また、当時としては比較的高齢の44–64歳まで生きていた。採取された7つのDNA抽出物の中から、2つが良好な保存状態であったため、配列解読のあと、3,233人の現代人と805人の古代人のゲノムライブラリーと照合して解析された。遺伝的モデル化により、著者らはヌワイラートのゲノムのほとんどを北アフリカの新石器時代の祖先に遡ることができた。さらに、ゲノムの約20%は、東部の肥沃な三日月地帯(Fertile Crescent)と関連しており、両地域間の交易と影響の証拠を補強している。

この個体が当時の広範な人口を必ずしも代表するわけではないものの、この発見は古王国時代エジプト人に関する理解を深める重要な進展である。今回の研究はまた、より良好なDNA保存状態をもたらす埋葬状態を明らかにしており、今後の発見への道を開いている。研究者らは、エジプトの早期人口史に関する理解を深めるため、さらなるゲノム解読を推進することを提言している。

Morez Jacobs, A., Irish, J.D., Cooke, A. et al. Whole-genome ancestry of an Old Kingdom Egyptian. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09195-5
 

doi: 10.1038/s41586-025-09195-5

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