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生物学:母親の鉄欠乏がマウスの雄の性決定に影響を及ぼす

Nature

2025年6月5日

Biology: Maternal iron deficiency alters male sex determination in mice

Nature

妊娠中のマウスの鉄欠乏は、XY染色体を持つごく一部の子孫に卵巣の発達をもたらす可能性がある。今週のNature に掲載されるこの研究結果は、鉄代謝と哺乳類の性決定との関連を明らかにするものである。

哺乳類における雄の性決定に関与する重要な遺伝子は、精巣の発達を制御するSry(sex-determining region Y;Y染色体性決定領域遺伝子)で、Y染色体上に存在する。Sry遺伝子の発現制御に不可欠なKDM3A(Lysine Demethylase 3A)と呼ばれる酵素は、その活性をFe2+(鉄(Ⅱ)イオン)に依存することが知られている。しかし、鉄の濃度が性決定にどのような影響を及ぼすかは、依然として不明である。

哺乳類における鉄代謝と性決定との潜在的な関連性を探るため、立花 誠ら(大阪大学)は、培養細胞とマウスを用いて一連の実験を行った。その結果、Fe2+の蓄積を促進する遺伝子が、性決定の重要な時期に、発育中のマウス胚性腺で発現上昇することがわかった。培養細胞の鉄レベルを正常レベルの約40%まで下げると、Sry遺伝子の発現はほぼ抑制され、XY生殖腺では卵巣の発達に関連する遺伝子マーカーが現れ始めた。

次に研究者らは、妊娠中のマウスで短期および長期の鉄欠乏の影響を試験した。短期鉄欠乏は、妊娠マウスに鉄を除去する薬剤を胚の性別決定の頃に約5日間投与することで誘発した。この母親から生まれた72匹のXYの子供のうち、4匹が2つの卵巣を、1匹が卵巣と精巣を発達させた。妊娠の4週間前から6週間にわたり低鉄食を与え、長期の鉄欠乏を誘発した。この長期低鉄分食は、KDM3Aをコードする遺伝子の機能喪失変異が母親に導入されるまで、性決定に影響を与えなかった。その結果、43匹のXY子孫のうち2匹で雌雄が逆転した。いずれの実験でも、鉄レベルが正常な母親から生まれた子供には異常は観察されなかった。

この結果は、哺乳類の性決定において鉄が重要な役割を果たしていることを示しているが、鉄欠乏が人間の妊娠に及ぼす影響については調査されていない。

  • Article
  • Published: 04 June 2025

Okashita, N., Maeda, R., Kuroki, S. et al. Maternal iron deficiency causes male-to-female sex reversal in mouse embryos. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09063-2
 

doi: 10.1038/s41586-025-09063-2

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