注目の論文

ウイルス学:体がある種のウイルスの感染を防ぐ仕組み

Nature Microbiology

2024年3月26日

Virology: How the body protects against transmission of certain viruses

精液中や唾液中に見られる細胞外小胞(EV)の表面上にある分子の1つに、ジカウイルスやデングウイルスなどの感染を阻害する働きがあることを明らかにした論文が、Nature Microbiologyに掲載される。今回の知見によって、これらのウイルスのヒトからヒトへの直接感染が少ない理由や、感染がこの分子を持たない血液などの体液や、血液を餌とする昆虫を介して起こりやすい理由を洞察することができる。

ジカウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス、エボラウイルス、ラッサウイルスといったウイルスは、さまざまなタイプの細胞に広く感染する。ただしこれらのウイルスは、精液や唾液を含むさまざまな体液に存在するにもかかわらず、経口感染や性行為感染は著しく少ない。これまでの研究で、精液と唾液にはEVが含まれていて、これがジカウイルスの標的細胞への結合を競争阻害してウイルス感染を阻害することが、室内実験で明らかにされていた。しかし、この現象の原因となる詳しい機構は明らかになっていなかった。

今回、Janis Müllerらは、ヒトの5種類の体液(精液、唾液、尿、母乳、血液)からEVを単離した。そして、精液由来のEV表面には、ホスファチジルセリン(PS)と呼ばれる分子が、血液由来のEV表面よりも多く見られることを発見した。室内実験では、EV表面のPSが細胞へのジカウイルスの感染を阻害すること、また、これはEVが同一のPS受容体を巡ってウイルスと競合し、ウイルスの付着と細胞への侵入を妨げるためであることが明らかになった。体内で見られるのと同程度のEV濃度で、デングウイルス、ウエストナイルウイルス、チクングニアウイルス、エボラウイルス、水疱性口内炎ウイルスの感染が実際に阻害された。しかし、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、重症急性呼吸器症候群ウイルス2(SARS-CoV-2)、ヘルペスウイルスは、侵入に他の受容体を使用するため、阻害されなかった。また、酵素を用いてEVからPSを「削ぎ落とした」ところ、ウイルス感染の阻害作用は失われた。

Müllerらは結論として、これらの知見は新しいタイプの抗ウイルス剤の開発に役立つ可能性があるが、それにはさらに研究が必要だと述べている。

doi: 10.1038/s41564-024-01637-6

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