注目の論文

生物工学:電流によって遺伝子発現を刺激

Nature Metabolism

2023年8月1日

Biotechnology: Gene expression stimulated by electric currents

遺伝子操作したヒト細胞で、遺伝子発現を電流によって活性化できることを報告する論文が、Nature Metabolismに掲載される。概念証明実験では、糖尿病のマウスモデルでこの系を用いることにより、遺伝子操作したヒト細胞からのインスリン生産を誘発できた。この知見は、生きた細胞をプログラムできるウエアラブルデバイスの開発に向けた一歩になるかもしれない。

ウエアラブル電子デバイスは、身体活動や血糖値といった健康パラメーターをモニターするのに使用されているが、現在は遺伝子の活性を直接変化させるのには使えない。遺伝子発現を制御できるデバイスがあれば、例えば、体内の特定のホルモンの生産を促すために特定の遺伝子を活性化したり抑制したりするような医療介入に役立つだろう。

今回Martin Fusseneggerらは、ヒト細胞の遺伝子発現を電流によって制御し得るかの原理証明実験を行った。バッテリーからの直流電流を動力源とし、ヒト細胞固有の感知システムを組み込んで目的の遺伝子を活性化する「電子遺伝子」インターフェースを開発し、これを直流電流作動性制御技術(direct current-actuated regulation technology:DART)と名付けた。このシステムは、電極によって発生するイオンから生じる活性酸素種(他の分子と非常に反応しやすい分子)を検出する。Fusseneggerらはこの技術を用いて、電気刺激に応じてインスリン遺伝子の発現を活性化するようヒト細胞を遺伝子操作し、その後、この細胞をゲルカプセルに封入して、マウスで検証した。このゲルカプセルを1型糖尿病の雄マウス5匹の背中に埋め込み、1日1回、鍼灸針を使用して4.5ボルトの電気刺激を10秒間与えたところ、インスリン生産が刺激され、血糖値が正常に回復することが明らかになった。

Fusseneggerらは、この電子遺伝子インターフェースは、将来の遺伝子治療や細胞治療に役立つ可能性があると述べている。

doi: 10.1038/s42255-023-00850-7

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