注目の論文

ウイルス学:英国のコウモリが保有するコロナウイルスの人獣共通感染能を評価する

Nature Communications

2023年6月28日

Virology: Assessing the zoonotic potential of coronaviruses in UK bats

英国のコウモリ16種の分析から、一部の英国のコウモリ種が、将来的にヒトに感染するかもしれないコロナウイルスを保有しているという可能性が判明した。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。現時点でヒトに感染する能力を有するコロナウイルスは見つからなかったが、今回の知見により、動物からヒトへの感染(人獣共通感染)の可能性のあるコロナウイルスを保有する英国のコウモリが存在することと、そのようなコロナウイルスの特徴が初めて明らかになった。これらのコロナウイルスがヒトに感染するリスクは、現在のところは非常に小さいが、監視を強化する必要のあることが示唆されている。

ヒトの新興感染症のほとんどは、病原体の人獣共通感染に起因している。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2、新型コロナウイルス感染症〔COVID-19〕の病原体)などのヒトコロナウイルスは、他の哺乳類、特にコウモリの間で広まっているウイルスと近縁な関係にある。従って、コロナウイルスの多様性の特徴を明らかにすることは、将来の人獣共通感染症のリスクを理解し、予防策を立案する上で重要だ。

今回、Vincent Savolainenらは、英国の在来種のコウモリ17種のうち16種から48点の糞便試料を採取してコロナウイルスのスクリーニングを行い、その人獣共通感染能を評価するための実験室実験を行った。今回の研究で、9種のコロナウイルスが回収され、そのうちの2種は今回初めて特定された。次に、Savolainenらは、コウモリが保有していたコロナウイルスが、ヒトの細胞受容体(例えば、アンギオテンシン変換酵素2〔ACE2〕)に結合するかを調べる実験を行った。もしこれらのウイルスが結合すれば、ヒトに感染する能力があるということになる。この実験の結果、1種のコロナウイルスが、ヒト細胞受容体に結合するが、結合効率は低いことが分かった。また、これらのウイルスのゲノム解析も行われ、コウモリが保有していたコロナウイルスの一部において、スパイクタンパク質(ウイルスの細胞への侵入に関与する)の塩基配列がSARS-CoV-2の塩基配列に類似していることが判明した。

Savolainenらは、今回の研究で特定されたウイルスがヒトに感染するためにはさらなる適応が必要である点を強調する一方で、人獣共通感染のリスクを継続的に監視するためのサーベイランス制度の向上も重要であることを明示している。

doi: 10.1038/s41467-023-38717-w

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