注目の論文

植物:植物標本コレクションに見る植民地の歴史の遺産

Nature Human Behaviour

2023年6月13日

Plants: The legacy of colonial history in plant collections

植物標本コレクションに見られる植物多様性は、かつて植民地支配を行っていた国々では高く、かつて植民地支配を受けていた国々では低い一方で、自然環境ではこれとは逆のパターンが見られることが分かった。このことを報告する論文が、Nature Human Behaviourに掲載される。今回得られた知見は、植物標本の研究・管理に植民地主義の遺産が今日においても残っていることを示唆している。

植物標本室(ハーバリウム)として知られる植物標本のコレクションは、植物研究の要であり、気候変動、公害、侵入生物種に関する不可欠なデータとなっている。植物標本室の歴史は植民地主義と密接に関連することが知られており、多くのコレクションの始まりは、植物の標本や知識を得るための植民地時代の調査にさかのぼる。そのような歴史から、北半球の先進諸国の植物標本室は、南半球の発展途上国に由来する多くの標本を保有すると理解されているが、その影響はこれまで定量化されていなかった。

自然界と植物標本室における植物多様性を定量的に比較するために、Daniel Parkらは、オンラインデータベース上の8500万以上の植物標本記録を分析し、39カ国の92の植物標本室を調査した。その結果、植民地支配の歴史を持つ国々の植物標本室には、アフリカ、アジア、南米の旧植民地の国々よりも多くの標本と種が保管されていた。一方、これら旧植民地国の自然環境における植物多様性は、かつての宗主国における植物多様性よりも高かった。またParkらは、現在、ヨーロッパ諸国と米国にある世界の10大植物標本室には世界中の植物標本が不釣り合いなほど大量に収蔵されており、その標本数は6500万点以上に上ると述べている。

Parkらは、以上のデータが、植物の多様性を測定するための能力と資源を有する機関や国に偏っている可能性があり、そのため、そうした格差は今回の分析結果が示唆するよりもさらに大きくなる可能性があると指摘している。またParkらは、植民地主義の遺産が植物標本コレクションを複数の大陸においてどのように形作っているかを明らかにする必要があるとも述べている。

doi: 10.1038/s41562-023-01616-7

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