疫学:コウモリの生息域が変わると人畜共通ウイルスが出現しやすくなる
Nature
2022年11月17日
Epidemiology: Changes to bat habitats facilitate the emergence of zoonotic viruses
気候の変化と土地利用の変化が、コウモリから他の動物への病原体の異種間伝播(スピルオーバー)を推進している可能性があることを示唆する研究論文が、Natureに掲載される。今回の研究では、オーストラリアで収集されたデータの解析が行われ、食物の不足と自然生息地の減少がヒトの居住地域におけるコウモリの生息継続の原因の一部であり、ヘンドラウイルス(最近判明した人獣共通感染症の病原体)が中間宿主であるウマに異種間伝播することが明らかになった。生息地の減少、気候変動と異種間伝播のリスクの関連性を解明すれば、将来のパンデミックを予防するための対策の策定に役立つかもしれない。
人獣共通感染症の異種間伝播とは、感染症の病原体が動物からヒトへ伝播することであり、中間宿主を介することが多い。そのような病原体の1つであるヘンドラウイルスは、コウモリ媒介ウイルスで、主にオオコウモリ属種(オーストラリアに生息するオオコウモリ類)に感染する。ヘンドラウイルスは、コウモリにとって致命的なウイルスではないが、ウマに伝播することがあり、ウマが中間宿主となって、ヘンドラウイルスがヒトに伝播して、重症感染症や致命的な感染症を引き起こす。これまでの研究で、野生生物からヒトへのウイルスの異種間伝播が土地利用の変化に関連している可能性が示されていたが、今回の研究では、関係のある機構に関する詳細な証拠が示された。
今回、Peggy Eby、Raina Plowrightたちは、オーストラリアの亜熱帯地域において、土地利用の変化、コウモリの行動、コウモリからウマへのヘンドラウイルスの異種間伝播に関する25年間(1996~2020年)のデータを解析した。これらのデータは、コウモリが、土地利用の変化と気候のために農業地域や都市部に生息するようになっていることを示している。また、エルニーニョ現象のような気候要因のためにコウモリの食物が不足し、エルニーニョ現象後にヒトの居住地域(コウモリが食物を得られる地域)の近くにコウモリのねぐらが増えた。同様に、コウモリの自然生息地が減ったことで、コウモリのねぐらがヒトの居住地域の近くに位置するようになった。気候要因と自然生息地の減少という2つの要因は、ウマへのヘンドラウイルスの異種間伝播リスクの増大と関連していた。論文著者は、近隣の原生林の名残(オオコウモリの自然生息地)が冬の開花期を迎えると、コウモリが農業地域や都市部を離れたことを示し、この開花期に異種間伝播が起こらなかったことを指摘している。
著者たちは、以上の知見が、食物の入手可能性の変化に対するコウモリの行動反応を介して土地利用の変化と異種間伝播を結び付ける複数の重要な過程を明らかにしていると指摘した上で、ウイルスの異種間伝播の原因を解明すれば、コウモリが宿主となっているウイルスの異種間伝播を抑制するための取り組みの指針となる可能性があると結論付けている。
doi: 10.1038/s41586-022-05506-2
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