社会科学:英国における社会移動に見られる浮き沈み
Nature Communications
2021年10月27日
Social science: The ups and downs of social mobility in Great Britain
1851~2016年の英国の家族集団の世代間社会移動を評価する研究が行われ、英国における社会移動は、地理的要因の影響を強く受けていることが示唆された。この研究結果を報告する論文が、Nature Communications に掲載される。この論文には、イングランドとスコットランドにおいて明瞭で永続的な地域格差が存在することも示されている。
世代間社会移動とは、世代間で起こり得る社会的地位の変化のことで、社会移動に影響を及ぼす数々の要因(例えば、親の収入や職業など)が知られているが、社会移動の影響を評価する研究は、最近の1世代のみを調べるのが通例であるため、限定的なものにとどまっている。
今回、Paul Longley、Justin van Dijk、Tian Lanは、ビクトリア朝時代の全人口の家族集団のデータと現在の全人口の消費者登録データを結び付けることで、1851~2016年の英国の1万3000以上の家族集団の社会移動を図示した。Longleyたちは、それぞれの家族集団について、現代の英国の各周辺地区の相対的剥奪の尺度に基づく評点をつけ、この家族集団の評点が1851年の国勢調査に記載されたそれぞれの祖先に起因すると考えた。1851年の国勢調査の各行政区における祖先の評点の平均値が、それぞれの行政区の住民が、現代を生きる子孫に残した「未来の多重剥奪指数」とされた。
Longleyたちは、このように現在のイングランドとスコットランドの住民に残された将来見通しに関しては、明瞭で永続的な地域格差が存在すること明らかにした。Longleyたちは、イングランドのデボン州を西端とし、セバーン河口とウォッシュ湾の間を北東に延びる線を境に南北格差が存在し、家族のルーツが北部の工業都市にあると現代における結果が思わしくないという見解を示している。また、Longleyたちは、スコットランドにも東西格差があり、東部は、19世紀の工業の中心地(リバプールやマンチェスター)と同様の高レベルの困窮状態にあることを明らかにした。
移住は、こうした不平等を部分的に軽減することが明らかになっているが、Longleyたちは、大部分の家族集団が、祖先の本拠地に集まって居住し続けているため、地理的位置によってもたらされる不利益を長期にわたって受け続けていると述べている。
doi: 10.1038/s41467-021-26185-z
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