注目の論文

人間行動学:大学環境におけるSARS-CoV-2の感染軽減

Nature Communications

2021年8月17日

Human behaviour: Mitigating SARS-CoV-2 transmission in university settings

複数の階層的制御介入を実施すれば、大学環境での重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染を抑制できる可能性のあることが、このほど行われたモデル化研究で示唆された。この研究知見は、英国内の1つの大学のデータに基づいており、ソーシャルディスタンシングを促進する複数の施策と対面授業の縮小と自己隔離を組み合わせることで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のアウトブレイク(集団発生)を防止できる可能性のあることを示している。今回の研究について報告する論文が、Nature Communications に掲載される。

英国では、COVID-19ワクチン接種が始まる前の2020年9月に各種制限の緩和が行われたため、多くの大学が再開され、COVID-19伝播のリスクが生じた。大学は、学生が一般的に社会的接触の数が多いことを報告し、密になる学生寮で生活し、長時間の接触を伴う集団指導セッションに出席するため、COVID-19伝播リスクの高い環境となる可能性がある。若年成人がCOVID-19を発症した場合に重症化する確率は低いが、ウイルスの不顕性伝播があるため、脆弱な集団が感染するリスクが生じ、より広範なコミュニティーに感染が拡大するリスクも生じる。

今回、Ellen Brooks-Pollockたとの研究チームは、数理モデル化を用いた研究を行って、各種制御介入(例えば、対面授業の縮小と個別試験の実施と両者の併用)が2020年9月に大学に戻った大学生のSARS-CoV-2感染率にどのような影響を与えるのかを調べた。今回の研究では、SARS-CoV-2パンデミックの発生前に実施された社会的接触数の測定調査のデータを用いて、大学生のCOVID-19伝播率を試算した。そして、Brooks-Pollockたちは、このデータとブリストル大学の学生を対象とした匿名化された学生寮データと教員データを組み合わせて、学生集団におけるCOVID-19感染拡大のシミュレーションを行った。その結果、1年生が、大型の学生寮で生活する傾向があるため、特に感染リスクが高いことが明らかになった。Brooks-Pollockたちは、学生寮における感染を抑制することが、より広域の大学環境における感染を制御する上で重要だという考えを示している。また、対面授業を減らすことが、感染を軽減するための最も効果的な個別的介入であることも明らかになった。Brooks-Pollockたちは、ソーシャルディスタンシング、オンライン授業、自己隔離、学生の集団試験の可能性を組み合わせて実施することが、有効な感染制御策となる可能性があるという考えを示している。

Brooks-Pollockたちは、大学環境では、追加的な制御策を考慮すべきことが以上の研究知見から示唆されると結論付け、今回の研究で実施されたタイプのモデリングが、大学環境でCOVID-19の集団発生が起こった場合の介入策の指針となる有用なツールになり得るという考えを示している。

doi: 10.1038/s41467-021-25169-3

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