注目の論文

考古学:旧石器時代に、水平線の彼方の琉球諸島へ船出した現生人類

Scientific Reports

2020年12月4日

Archaeology: Palaeolithic sea voyage to Japanese islands beyond the horizon

現生人類は、航海に出た時点で琉球諸島は見えていなかったにもかかわらず、意図的に海を渡って琉球諸島に移住したと考えられることを示した論文が、Scientific Reports に掲載される。

人類は、旧石器時代(3万5000~3万年前)に台湾東部から海を渡って琉球諸島に移住したと考えられている。しかし、琉球諸島にたどり着いたのは黒潮による偶発的な漂流の結果なのか、計画的な船旅だったのかが明らかになっていなかった。黒潮は、フィリピンのルソン島沖から台湾沖を経由して日本へ流れ込んでいる。

今回、東京大学の海部陽介(かいふ・ようすけ)たちの研究チームは、黒潮による偶発的な漂流によって人類が琉球諸島に到達した確率を調べるため、1989〜2017年に台湾沖またはルソン島北東沖を漂流した138個の衛星追跡ブイの軌跡を調査した。台湾沖を漂流した122個のブイのうち、114個は黒潮によって北上し、そのうち3個は悪天候の中、琉球諸島中部と南部から20キロメートル以内に入っていた。また、ルソン島沖を漂流した16個のブイのうち13個が黒潮に乗って漂流したが、琉球諸島に向かって移動したのは1個のみであり、これは台風の影響によるものだった。黒潮の流れは10万年前から変わっていないと考えられていることから、今回の研究結果は、漂流船に乗った人類が黒潮による偶発的な漂流によって琉球諸島に到達する確率が低いことを示している。以上の知見は、約3万5000年前に人類が琉球諸島に移住するために、世界で最も強い海流の1つである黒潮を意図的に横切ったことを示唆している。

琉球諸島の中で台湾東部に最も近い与那国島は、台湾の海沿いの山々から時々しか見ることができない。海部らは、人類が、船旅の後半になって初めて視野に入ってくるような島々に向かって航海したと考えている。

doi: 10.1038/s41598-020-76831-7

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