注目の論文

ウイルス学:2019年の新型コロナウイルスの命名

Nature Microbiology

2020年3月3日

Virology: Naming the 2019 novel coronavirus

国際ウイルス分類委員会のコロナウイルス研究グループが、現在呼吸器疾患の集団発生を引き起こしている新型コロナウイルスの名称を決定されたことを報告する合意声明が、今週Nature Microbiology に掲載される。このウイルスは、SARS-CoV(重症急性呼吸器症候群SARSの病原体)を基準株とする種に遺伝的に近い関係にあるため、SARS-CoV-2と命名された。この論文では、ウイルス類の命名過程を詳しく説明し、命名法をめぐって混乱が生じる原因を分析し、新たに出現したウイルスの特徴を注意深く見極める重要性を強調している。

新しいウイルスを分類する手順として定着しているのは、既知のウイルスとの遺伝的な関係の評価である。コロナウイルスには現在、広く認められた種が39と暫定的な種が10存在し、その多くにそれぞれ何十、何百もの異なったウイルスが含まれている。John ZiebuhrとAlexander Gorbalenyaのグループは、今回の新しいコロナウイルスが、これら既知のコロナウイルスとの遺伝的関連性がどの程度あるかを評価した。ゲノムデータの比較と、ウイルス複製に関わるよく保存されたタンパク質の差異を特に詳しく見ることにより、この新しいウイルスがSARS関連コロナウイルスの仲間であることが分かった。この関係性は他のグループからも報告されており、非常に密接なことから、この新しいウイルスは、新たな種とするのではなくこの既存種に属すると分類され、重症急性呼吸器症候群に関連するコロナウイルスとの遺伝的関連から、SARS-CoV-2と名付けられた。SARS関連コロナウイルス自体の名称は、基準株であるSARS-CoV(2002年~2003年にヒトでの集団発生した呼吸器疾患SARSの原因で、疾患名にちなんで命名された)から来ている。

重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルスには既知のウイルスが何百種類も含まれ(主としてヒトとコウモリから単離されたもの)、その全ての名称はSARS-CoVに由来しているが、著者たちは、名称に入っているSARSの語は基準株との進化上の関連を示してはいるが、疾患との臨床的な関連性というわけではない。

SARS-CoV-2の特徴として現在得られているデータでは、病気の性質や感染様式はSARS-CoVで報告されているものとは異なっている可能性がある。著者たちは、SARS-CoV-2の流行は2002~2003年のSARS-CoVの流行とは全く別物だと考えるべきだと述べている。ただ著者たちは、これら2つのウイルスが遺伝的に非常によく似ていることに着目しており、これらのウイルスやコウモリなどの動物に感染する非常に近縁のコロナウイルスの生態や進化について理解を深めるには、この種のウイルスの関連性を研究することが役立つだろうと推奨している。

WHOは、SARS-CoV-2が引き起こす疾患をCOVID-19と名付けた。この名称には、非常に幅広い臨床症状や転帰が結び付いているようである。病気とウイルスの名称とを切り離したことで、ウイルスと病気の区別が明確になる。著者たちは、ウイルスの流行と臨床疾患に言及する際に、これらの語を一体化させないよう求めている。

doi: 10.1038/s41564-020-0695-z

「注目の論文」一覧へ戻る

プライバシーマーク制度