注目の論文

市民科学プロジェクトによって解明が進むペンギンの繁殖動態

Scientific Data

2018年6月27日

Scientific Data: Citizen science project reveals penguin breeding dynamics

南極半島とサウスシェトランド諸島、サウスジョージア島でのアデリーペンギンの繁殖コロニーの動態を捉えた約7万4000点の画像データについて報告する論文が、今週、Scientific Dataに掲載される。これらの画像は、ズーニバースの「ペンギン・ウォッチ」プロジェクトにおいて15台のカメラを使って撮影されたもので、市民科学の手法によって、ボランティアが画像の分類を行った。

南極は過酷な環境の遠隔地であるため、陸上で大規模な監視研究を行うことは難しく、そうした研究の数は少ない。そのため、ペンギンの個体群動態を調査した研究は、1か所で調査したもの、あるいは数か所で調査した結果を総合したものに地域データを外挿して、調査結果の範囲を1つの地域内で拡大したり、複数の地域に広げたりしたものが大半だ。しかし、この手法は、数多くの個体群が広範囲に分布している場合の調査方法としては不十分だ。ペンギン個体群の動態、繁殖成功度、およびフェノロジー(季節的挙動)の解明が進めば、気候変動や乱獲などの脅威の影響を監視でき、保全対策の有効性を高める道が開ける。

今回のFiona Jonesたちの論文には、匿名ボランティアによる7万3802点の画像の分類と、それに関連するメタデータ(日付、時刻、気温情報を含む)が示されている。「ペンギン・ウォッチ」ネットワークのそれぞれのカメラは、原則として、年間を通じて午前7時から午後8時まで1時間に1回撮影する。得られた画像はボランティアによって分類され、各画像に写っている物体1つ1つに目印を付けて、それがペンギンであれば「成体」「ひな」または「卵」、その他の動物、ヒト、船舶などであれば「その他」と標識した。この程度の注釈があれば、重要な生物季節段階(例えば、ひなの孵化)の検出が可能になる。これまでに「ペンギン・ウォッチ」では、約4万8000人の登録ボランティアと数多くの匿名参加者が分類した600万点以上の画像を処理している。

Jonesたちは、この種の注釈付き経時撮影画像は、環境監視上の利点に加えて、データ抽出を自動化するための機械学習アルゴリズムのトレーニングツールとしても利用でき、また、今回の論文で紹介された方法は、市民科学の過程を利用することの有効性の検証でもあると考えている。

doi: 10.1038/sdata.2018.124

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