注目の論文

【気候科学】火山の噴火と古代エジプトの衰退

Nature Communications

2017年10月18日

Climate sciences: Volcanic eruptions and the fall of ancient Egypt

古代エジプトにおける社会暴動のきっかけは、火山の噴火、気候変動、そして、ナイル川の夏の洪水の抑止であった可能性を示した論文が、今週掲載される。この新知見は、火山活動と気候と社会の相互作用があったことを実証している。

大都市アレクサンドリアに首都を置いたプトレマイオス朝時代(紀元前305~30年)のエジプトの繁栄は、ナイル川と直接結び付いていた。夏になると発生するナイル川の洪水は、主にエチオピア高原でのモンスーンによる降水に起因しており、ナイル川流域の農業を成立させるために必須だった。詳細に記述された当時の文献には、ナイル川の洪水がないことと社会不安との相関が示されている。ただし、洪水が抑止された根本原因は明らかになっていない。

今回、Francis Ludlowたちの研究グループは、火山-気候の数値モデリング、氷床コア記録に基づく火山の噴火時期のカタログ、社会経済的行動に関する古代エジプトの文献、イスラム時代のナイロメーターの測定記録(古い時代のナイル川の水位の記録)を併用して、ナイル川の洪水能力に対する火山噴火の影響可能性を調べた。その結果、ナイル川流域の降水帯が弱まって、ナイル川の洪水が系統的に抑止された時期が、火山が噴火した時期と一致していたことが判明し、これまで説明できていなかった複数の社会暴動の事例について、噴火現象との関連が統計的に示された。さらにLudlowたちは、歴史上の重大事件について記述された古代の文献と氷床コア記録を比較することによって、プトレマイオス朝の終局的崩壊とローマの属州としてのエジプトの誕生において火山の噴火が中心的役割を担っていた可能性のあることを明らかにした。

今回の研究で、プトレマイオス朝時代のエジプトが火山の噴火に弱かったことが明らかになったが、このことは、モンスーンに依存する農業地帯全体に対する警告である。現在、世界の総人口の70%にあたる人々が、こうした農業地帯に居住している。

doi: 10.1038/s41467-017-00957-y

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