構造生物学:ヒトのカンナビノイド受容体の作用機構の解明
Nature
2017年7月6日
Structural biology: Understanding how the human cannabinoid receptor works
ヒトカンナビノイド受容体1(CB1)は、マリファナの主要な精神活性成分であるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)と結合する脳受容体だが、このほど、2種類の合成カンナビノイドと複合体を形成したCB1の結晶構造が解明された。今回の研究では、CB1の活性化機構の詳細に関する新たな事実が判明し、そこからΔ9-THCとその他の精神活性カンナビノイドの作用機序が明らかになった。この研究結果は、生理学的研究、創薬や人間の健康にとって重要な意味を持つ可能性がある。この研究について報告する論文が、今週掲載される。
マリファナは、さまざまな文化圏で5,000年以上にわたって薬効と快楽追求のために使用されてきた。その主要な精神活性成分はカンナビノイドΔ9-THCで、CB1を活性化することで効果を及ぼす。CB1は、脳独自の内在性カンナビノイド系によって活性化し、疼痛管理、てんかんや肥満の治療標的になっている。CB1が多様な生理的効果を誘導する機構を解明するには、CB1がD9-THCなどのアゴニストと結合する機構に関する知識が必要となるが、アンタゴニストが結合したCB1の構造を調べた過去の研究では、CB1の不活性状態に関する知見しか得られていなかった。
今回、Zhi-Jie Liuたちの研究グループは、2種類のアゴニスト(合成THC誘導体)と複合体を形成したヒトCB1の結晶構造を解明した。その結果、アゴニストが結合したCB1の結晶構造における結合領域の容積が、アンタゴニストが結合したCB1より53%少なかったことが判明した。また、CB1は風船のような柔軟性を有しているが、このことが、多様な生理活性と心理活動がCB1によって調節される機構を説明するうえで役立つ可能性がある。さらに、CB1の結晶構造からは、CB1の活性に必須と考えられる「2つのトグルスイッチ」の存在も明らかになった。
doi: 10.1038/nature23272
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