注目の論文
脳はなぜ新しい神経細胞を作るのか
Nature Neuroscience
2008年9月1日
Why the brain makes new nerve cells
成人の脳は、嗅覚や空間認識の調節を行う領域を維持するために、神経細胞を連続的に新生する必要があることが、Nature Neuroscience(電子版)の論文で示唆されている。
数年前まで、成人の脳は神経細胞を徐々に失うだけで、新しい細胞を作り出すことはできないと考えられていた。この学説は覆されたが、数少ない新生神経細胞に何か重要な役割があるのかどうかは知られていない。
影山龍一郎らは、成体になってから生じたすべての神経細胞が蛍光タンパク質を合成するようマウスを遺伝子改変し、1年以上にわたって蛍光を放つ神経細胞の数を記録し、この問題に取り組んだ。この間、嗅球(嗅覚に重要)の一定の層にあるほぼすべての神経細胞が新しいものに入れ替わっていた。空間学習と記憶に非常に重要な海馬では、新しい細胞が約15%加わっていた。
そこで影山らは、神経細胞の発生を止めるとマウスの嗅覚や学習能力が妨害されるかどうか調べた。成体のあらゆる神経細胞前駆体で毒性タンパク質を生成しそれを死滅させる別のマウス系統を作出した。新しい神経細胞ができないためマウスの嗅球は収縮したが、驚いたことに嗅覚は正常のまま少なくとも4カ月間維持された。これは嗅覚回路網の何重にも機能を補完していることを示唆する。対照的に、ある特定の迷路を通り抜ける方法を記憶する能力は失われた。
doi: 10.1038/nn.2185
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