【遺伝】クマムシのゲノム塩基配列から明らかになった極限状態への適応
Nature Communications
2016年9月21日
Genetics: Water bear genome reveals adaptations to the extreme
小型水生動物の緩歩動物(クマムシ)の一種であるヨコヅナクマムシ(Ramazzottius variornatus)の高品質ゲノム塩基配列が得られたことを報告する東京大学の國枝武和(くにえだ たけかず)たちの論文が、今週掲載される。今回の研究では、ヒトの培養細胞を用いた実験で、ヨコヅナクマムシの1つの遺伝子にコードされたタンパク質がDNA損傷に対する耐性を付与することが明らかになった。この新知見は、緩歩動物に固有のタンパク質が、細胞がDNA損傷の原因に対する耐性を獲得する上で役立つことを示唆している。
緩歩動物は、真空空間などストレスの極めて多い環境で生き延びることができるが、その正確な機構は解明されていない。そうした能力がきっかけとなって、緩歩動物のゲノムに関する研究が始まり、緩歩動物の一種であるドゥジャルダンヤマクマムシ(Hypsibius dujardini)のゲノム塩基配列が初めて解読された。それにより、緩歩動物は、進化の過程で、遺伝子水平伝播(異なる生物種のゲノムの間でDNAが伝達されること)によって他の生物種から大量の遺伝子を獲得したことが示唆されている。しかし、極端な環境に対する緩歩動物の耐性の原因は謎のままだった。
國枝たちの論文には、ストレスの極めて多い環境に対する耐性を持つことで知られるヨコヅナクマムシの高品質のゲノム塩基配列が示されている。この塩基配列からは、広範な遺伝子水平伝播のあったことを示す証拠が見つからなかった反面、ストレスの多い環境に対する耐性に関わる遺伝子がショウジョウバエや線虫より多いことが分かった。また、國枝たちは、DNAと結合してヒトの培養細胞をX線照射から守る上で役立つ単一のタンパク質を同定し、これが緩歩動物に固有のタンパク質だと考えている。さらに國枝たちは、緩歩動物の遺伝子と他の生物種の遺伝子を詳しく比較した結果をもとに、この防御作用のあるタンパク質をコードする遺伝子が緩歩動物の系統に固有なものである可能性が高いという見解を示している。以上の結果は、この耐性が遺伝子水平伝播によってもたらされたとする学説に反している。
緩歩動物に固有の適応が分子レベルまたは生物体レベルでどのような機能を果たすのかという点は、いまだに明らかになっていないが、今回の國枝たちの研究成果は、緩歩動物がストレスの多い状況に対処するための固有の戦略を進化させたことを示唆している。
doi: 10.1038/ncomms12808
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