生態学:ハイイロオオカミが寄生虫に感染すると群れのリーダーになる確率が高くなる
Communications Biology
2022年11月25日
Ecology: Parasite-infected wolves more likely to become leader of the pack
米国ワイオミング州のイエローストーン国立公園に生息するハイイロオオカミ(Canis lupus)は、トキソプラズマ症の原因寄生虫であるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)に曝露されると、群れのリーダーになる確率が、未感染個体の46倍以上に達することが研究で明らかになった。この知見によって、寄生虫感染がオオカミの意思決定や行動に影響を与えることが初めて実証された。今回の研究について報告する論文が、Communications Biologyに掲載される。
今回、Connor Meyer、Kira Cassidyたちは、イエローストーン国立公園に生息するハイイロオオカミを調査し、リスクを負う行動とトキソプラズマ原虫の感染との関連を調べた。トキソプラズマ原虫の感染は、健常な個体の適応度に悪影響を及ぼすことは少ないが、若齢個体や免疫抑制状態にある個体にとっては、命取りになることがある。この論文の著者たちは、26年間(1995~2020年)のハイイロオオカミの行動と空間分布のデータを解析し、ハイイロオオカミ(229頭)に麻酔をかけて採取した血液サンプルを用いて、トキソプラズマ原虫に対する抗体のスクリーニング検査を行った。また、この国立公園に生息するピューマ(Puma concolor)がトキソプラズマ原虫の宿主であることが知られているため、著者たちは、以前に作成されたピューマの生息分布の空間モデルを使用し、ピューマ(62頭)から採取した血液サンプルのスクリーニング検査も実施した。
その結果、ハイイロオオカミの生息地が、ピューマの生息密度の高い地域と重複している場合には、ピューマの近くに生息していないオオカミの場合よりもトキソプラズマ原虫に感染する確率が高いことが判明した。このことは、ハイイロオオカミがピューマとその生息環境に直接接触した結果として寄生虫に感染する可能性があることを示唆している。また、著者たちは、雄と雌の両方の場合で、寄生虫感染とリスクの高い行動が関連していることを明らかにした。この関連は、ハイイロオオカミの個体と個体群の適応度に影響を与える可能性がある。トキソプラズマ原虫の感染検査で陽性反応を示したハイイロオオカミは、未感染個体と比べて群れから分散する確率が11倍高く、群れのリーダーになる確率が46倍以上高かった。トキソプラズマ原虫に感染した雄は、観察を始めてから6か月以内に群れを離れる確率が50%に達したが、未感染の雄は21か月後に群れを離れる確率が50%だった。感染した雌は、30か月以内に群れを離れる確率が25%に達し、未感染の雌は、48か月以内に群れを離れる確率が25%だった。
以前の研究で、トキソプラズマ原虫感染と大胆な行動の増加との関連(ハイエナの場合)とテストステロン産生の増加との関連(ラットの場合)が明らかになったことから、著者たちは、トキソプラズマ原虫の感染検査で陽性反応を示したハイイロオオカミにリスクの高い行動が見られるようになったのが、上記2つの場合と類似した機構によるものかもしれないと推測している。そして、著者は、トキソプラズマ原虫に感染した群れのリーダーが、ピューマの生息地と重複する高リスク地域に群れを誘導する可能性があるため、トキソプラズマ原虫感染が、イエローストーン国立公園のハイイロオオカミの個体群に幅広い影響を及ぼす可能性があるという考えを示している。このことは、未感染のハイイロオオカミの感染リスクを高め、さらなる危険な行動を引き起こすフィードバックループを形成する可能性がある。
doi: 10.1038/s42003-022-04122-0
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