神経科学:脳スキャン結果と行動を関連付ける研究におけるサンプルサイズの重要性
Nature
2022年3月17日
Neuroscience: Sample size matters in studies linking brain scans to behaviour
脳の構造や機能と複雑な行動との関連性を評価する研究では、結果の信頼性を確保するために数千人分のサンプルが必要なことが、約5万人分のデータの解析によって明らかになった。このことを報告する論文が、Nature に掲載される。
ブレインワイド関連解析(BWAS)は、磁気共鳴画像法(MRI)などの脳スキャンのデータを用いて、脳の構造や機能の多様性と認知やメンタルヘルスに関連する特徴との関連を調べることを目指す。この関連性は、精神疾患の予測や予防と、ヒトの認知能力の解明を進める上で役立つ可能性がある。しかし、MRIデータの取得には高いコスト[1時間当たり約1000ドル(約11万円)]を要するため、BWASのサンプルサイズが抑制され(参加者数は25人程度になることが多い)、再現性のある結果を得ることが困難になっている。
今回、Scott Marekたちは、サンプルサイズがBWASの再現性に及ぼす影響を評価した。今回の研究では、これまでに実施された中で最大規模の神経画像研究である思春期脳認知発達研究(参加者1万1874人)、ヒト・コネクトーム・プロジェクト(参加者1200人)、英国バイオバンク(参加者3万5735人)のデータを解析することで、25人から3万人以上の範囲のサンプルを用いた場合のBWASの信頼性を調べた。今回の解析で、BWASのサンプルサイズが小さいと、効果量のインフレが起こり、関連性を再現できないことが明らかになった。一方、サンプルサイズが数千に達すると、再現率は向上し始め、効果量のインフレは縮小した。Marekたちは、BWASの再現不能が広範に起こっていることは、同一集団内のサブサンプル間のばらつきと関連効果量が小さいことで説明できるとし、サンプルサイズが小さいBWASの結果の解釈には、一定の慎重さが必要だという考えを示している。
Marekたちは、BWASの解析結果を改善するための今後の取り組みには、強制的な情報共有の方針に基づいたデータの集約が含まれ、脳の構造や機能と認知やメンタルヘルスの表現形質の関連性の中で最もロバストなものに着目するという配慮も含まれるかもしれないと結論付けている。
doi: 10.1038/s41586-022-04492-9
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